(※写真はイメージです/PIXTA)
閉ざされた「オンライン」への入り口
マンモス団地の一室に暮らす佐藤和子さん(74歳・仮名)。5年前に夫に先立たれ、今は1人で暮らしています。生活のベースは月12万円ほどの年金です。質素倹約が身についている和子さんは、決して楽ではないけれど、不自由はない生活を送っていたと振り返ります。しかし現在、食卓の端には未開封の封筒が山のように積まれています。日常の綻びは、ごく些細な「電気料金の支払い方法の変更」から始まったといいます。
電力会社から届いた一通の通知。それは従来の払込用紙から、口座振替への移行を促す内容でした。「そのうちやろうと思っていました。急ぎじゃないと思って」。和子さんは当時をそう回想します。重い腰を上げ、スマートフォンでオンライン手続きを試みましたが、画面に並ぶ専門用語と複雑な遷移が行く手を阻みました。
「途中で戻り方が分からなくなってしまって。一度やめたら、そのままになりました」
一度の挫折が、取り返しのつかない空白を生みます。払込用紙の送付が止まったことにも、すぐには気づけませんでした。
「払ったつもりになっていたんです。まさか自分が滞納者になるなんて……」
数ヵ月後、ポストに届いたのは延滞料金が加算された督促状でした。パニックに陥り、すぐに受話器を取りましたが、そこに待っていたのは「人間」の声ではなく、無機質な音声案内です。
「説明できるか不安で。自分が何をしていないのか整理できなくて、途中で切ってしまいました」
支払う能力がないわけではない。ただ、手続きの「作法」が分からなくなった――。自分が何をミスしたのかさえ言葉にできない混乱が、和子さんから自信を奪っていきます。最終的に「供給停止予告」が届く事態に至り、窓口に駆け込むことで最悪の事態は免れました。この一件以来、和子さんは書類全般に対して強い抵抗感を抱くようになったといいます。
「他人にとっては笑い話かもしれませんが、自分の中では大きくて……もう一人では無理かも、と」