夫の定期検診が突きつけた「目を反らしてきた現実」

そんな感情を抱いた理由に気づいたのは、夫の定期検診がきっかけでした。

「念のため、再検査をしましょう」

医師の言葉に、夫は「大したことないだろう」と笑っていましたが、美智子さんの胸には、これまで意識せずに済んでいた考えが浮かびます。

——もし、夫が先にいなくなったら。
——この広い家は、どうなるのだろう。
——自分が亡くなったあと、息子はどうするのか。

ちょうどその頃、実家の墓じまいをすることになり、久しぶりに妹と電話で話す機会がありました。「うちは長男が、墓は自分が継ぐって言ってくれてるの」。妹の声は、明るく、迷いがありませんでした。

美智子さんは、何も言えませんでした。自分は広い家に夫婦二人だけ。部屋は空いたまま、庭の手入れも負担になりつつあります。息子は夫が購入した都心のマンションに住み、実家に戻る気配はありません。

息子は結婚の予定もなく、将来も一人かもしれない。だからこそ、墓を守る責任を押しつけたくない。そう考えて、話題にすることを避けてきたのです。

お金では負けていない。それなのに、なぜか心がざわつく……妹の家には、「続いていく」何かがある。でも、自分の家には——。そのとき美智子さんは改めて痛感させられました。お金があっても、埋められない不安があるのだ、と。