久しぶりの帰省で、親の意外な変化に戸惑った経験はないでしょうか。一方で多くの高齢者が変化を自覚しながらも、対策を拒んでしまうという現実があります。そこには、老いを受け入れがたい心理的な壁や、周囲との意識の乖離が隠されています。ある親子のケースをみていきます。
年末年始の帰省で48歳長男が絶句。実家に響く「テレビの大音量」、何度呼んでも無反応の76歳父…切実な「老い」の光景 (※写真はイメージです/PIXTA)

「自覚があるのに対策しない」親が4割超…子世代が悩む「老いの指摘」という高い壁

厚生労働省『加齢性難聴対策に関する共同宣言(2024年)』や関連資料によると、日本における難聴自覚者の補聴器装用率は約15%。欧米諸国の40〜50%台と比較すると極めて低く、多くの高齢者が「聞こえづらさ」を放置している実態があります。しかし、難聴の放置は単なる不便に留まりません。周囲とのコミュニケーションを妨げ、心身の活力を奪う「ヒアリングフレイル」を招き、認知症やうつ病の発症リスクを高めることが各自治体の啓発資料(福岡県「フレイル予防」等)でも強く指摘されています。

 

この「放置」の背景にある心理を深掘りしたのが、NTTソノリティ株式会社/cocoe(ココエ)が実施した調査。ここでは親自身の92.5%が聞こえづらさを自覚していながら、そのうち4割以上(43.9%)が対策を行っていないことが判明しました。

 

親世代にとって「耳の衰え」を認めることは、自身の老いや社会的な役割の喪失を突きつけられる、極めてデリケートな問題です。佐藤さんの父のように、補聴器という言葉に「年寄り扱いされた」と強く反発するのは、その裏返しといえるでしょう。一方、子世代も「親を傷つけたくない」「老いを認めさせるのが忍びない」という配慮から、約2割が対策を提示できずにいます。

 

こうした「正論のぶつかり合い」を避けるために、昨今の地域包括ケアの現場や予防医学の観点からは、「生活を豊かにするツール」として導入を促すアプローチが有効であると考えられています。

 

たとえば、「耳が悪いから検査に行こう」という欠損を埋める提案ではなく、「大好きな映画のセリフを鮮明に楽しむために、最新のデバイスを使ってみない?」という、楽しみを広げる提案です。実際、同調査でも約8割の人が関心を寄せたのが、補聴器よりも手軽でスタイリッシュな「集音機能付きイヤホン」という選択肢でした。これらはワイヤレスイヤホンのようなデザインで、装着することへの心理的抵抗が少ないのが特徴です。「贈り物」という形であれば、親もプライドを傷つけられることなく、子の気遣いを受け入れやすくなります。

 

親の老いは避けられない現実です。しかし、それを衰えとして指摘するのではなく、「これからも楽しくお喋りしたいから」という素直な気持ちとして伝えられるかどうか。正面から向き合うのが難しい問題だからこそ、まずはそんな小さな「歩み寄り」から始めてみてはいかがでしょうか。

 

[参考資料]

NTTソノリティ株式会社『【親の“聞こえ”に関する調査】帰省で気づく親の“老い”。最大のサインは「テレビの大音量」。 親の4割は「自覚あるも放置」』