「お金がないなら奨学金を利用すればいい」インターネットや金融教育が十分でなかった時代、知識を持たない18歳の学生にとって、その決断は進学のための唯一の希望にみえた。しかし、返済のリアルや他制度との比較検討をしないまま契約書にサインをした瞬間、彼女の学生生活は「学ぶ時間」ではなく「稼ぐ時間」へと変わってしまった。生活費と学費を賄うために、来る日も来る日もアルバイトに追われる日々。資金と情報を持つ学生が留学やインターンで豊かな体験を積む一方で、彼女は生きるために時間を切り売りするしかなかった。「知らなかった」という入り口が、いかにして学生時代の貴重な経験を奪い、その後のキャリアに影を落とすのか。総額480万円を背負ったある女性の事例から考えていく。
「将来は英語を使った仕事をしたい」地方出身の39歳女性、情報弱者だった高校時代、自衛隊不合格で選んだ専門学校進学。〈奨学金・480万円〉の末路…彼女が〈借金〉と思わなかった理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

就活で突きつけられる“残酷な経験格差”

こうしたAさんの経験は、決して特殊な事例ではない。マイナビキャリアリサーチラボの調査によると、学生が就職活動で最も多く感じる「格差」について、3人に1人が「学生時代の経験(経験格差)」と回答したという。

 

具体的な学生の声をみてみると、「アルバイトを月に80時間以上しなければ生活できず、留学やサークルに時間を使えなかった」「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)において、アルバイトより留学などのエピソードのほうが評価がいい気がして苦労した」といった意見が目立つ。経済的な理由でアルバイトを優先せざるを得ず、結果としてほかの経験を積む機会を失っている実態が浮き彫りとなっているのだ。

 

また、選考において「留学や海外経験への評価が異常に高いと感じる。そこには家庭環境も影響するため、大きな差をつけないでほしい」といった切実な訴えもあった。

 

Aさんのように、親に頼れず学費や生活費を自力で工面する学生にとって、お金と時間の制約はそのまま「経験格差」へと直結する。そして、奨学金を背負う学生は卒業後も、やりたい仕事より「返済できる給与」で企業を選び心残りを抱えるか、あるいは夢を優先して苦しい生活を強いられるかの二択を迫られ続けているのだ。

 

若者の学びを後押しするはずの奨学金が、その後の生活を圧迫し、将来の選択肢を狭めてしまうのであれば、それは「未来への投資」ではなく、単なる「負債」に成り下がってしまうだろう。こうした若者の現状や「みえない格差」に目を向ける必要がある。人を雇用する企業も、その生産活動の恩恵を受ける社会も、次世代の可能性を全員で支えていかなければならない。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者