(※写真はイメージです/PIXTA)
50年分の生活を2週間でリセット…「親の入居」と同時に始まった片付けの地獄
「お母さん、ふざけないで! これのどこがゴミじゃないっていうの。全部捨てなきゃ、施設には入れないんだよ!」
鈴木美智子さん(54歳・仮名)。声を荒らげた相手は、母・ハナさん(82歳・仮名)です。千葉県内、築50年の一軒家で一人暮らしをしていたハナさんが、自宅の廊下で転倒。大腿骨を骨折し、緊急手術を受けました。術後の経過は良好だったものの、車椅子生活を余儀なくされ、入院中に認知機能の低下も見られるようになりました。医師からは「一人暮らしに戻るのは極めて危険」と断言され、美智子さんは急いで老人ホームを探すことになったと振り返ります。
「母の受給年金は月13万円。私が月々7万円ほど持ち出せば、なんとか民間の介護施設に入居できる目処が立ちました。でも、本当に大変だったのはそこからだったんです」
美智子さんが苦労したのは実家の片付け。施設側から提示された入居日は14日後。さらに、施設に持ち込めるのはテレビ1台と小さな衣装ケース2つ分、あとは最低限の身の回り品だけという厳しい制限がありました。
「施設に入居したら、きっと片道切符になる。生前整理を行う最後のチャンスだと思って一気に片付けようと思ったんです。しかし母が50年以上暮らしてきた4LDKの家には、膨大な量の荷物がありました」
昭和の頃からもらったままの贈答品、一度も着ていない着物、子どもたちが小学生の頃の作文……。母にとってはすべてが人生そのもので、ひとつでも捨てようとすると「私の人生を否定するのか!」と激しい拒絶にあったといいます。美智子さんは平日の仕事を終えた後、実家に通い、深夜まで仕分け作業を続けました。しかし、素人の手には負えず、清掃業者に見積もりを依頼したところ、提示された金額は80万円。この費用はすべて美智子さんが負担することになりました。
「お金以上に困ったのは、通帳や印鑑、保険証券の場所がまったくわからなかったことです。母に聞いても『あっちにある』『誰かに盗まれた』と要領を得ません。家中をひっくり返して探し回るだけで数日が過ぎていきました」
さらに、現代ならではの課題も美智子さんを追い詰めました。
「母が使っていたスマートフォンのパスワードがわからず、契約していた定額制の動画サービスや、複数のサブスクリプションの解約ができなかったんです。カスタマーセンターに電話しても本人確認ができず、窓口をたらい回しにされました。肉体的な疲労以上に、母との板挟みによる精神的な消耗が激しかったです」
結局、美智子さんは業者の力を借りて、大半の家財を「ゴミ」として処分せざるを得ませんでした。入居当日、空っぽになった家を見て涙を流す母の姿に、美智子さんは「もっと早く、元気なうちに一緒に整理を始めていれば……」と、後悔の念を抱いたといいます。