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多様化する離婚理由…「夫婦の数だけある」破綻の引き金
第三者から見れば「今さらそんな理由で」と感じるような動機であっても、本人にとっては人生を懸けた決断。そのような熟年離婚も決して珍しいことではありません。
厚生労働省『令和4年(2022年)人口動態統計』によると、同居期間が20年以上の夫婦の離婚件数は、全体が減少傾向にあるなかで高止まりしています。全離婚に占める割合は1947年の統計開始以来、最高水準にあります。特に同居期間30年以上の夫婦の離婚は、30年前と比較して約2倍に増加しました。
かつての離婚理由は「性格の不一致」や「経済的理由」が上位を占めていましたが、近年では佐藤さんの事例にあるような「義父母との関係」や、死後まで同じ墓に入ることを拒む「死後離婚(没後離婚)」への意識の高まりも、その延長線上にあります。
裁判所『司法統計』の「婚姻関係事件数 申し立ての動機別」を見ても、妻側からの申し立て理由には「精神的に虐待する」や「生活費を渡さない」といった項目に加え、「家族親類との折り合いが悪い」という項目が常に一定数存在します(男性側の申し立てでは5位、女性側の申し立てでは10位)。これは、長年の我慢が限界に達し、人生のゴールが見えてきた段階で「自分自身の人生」を取り戻そうとする心理の表れでしょう。
近年、SNSやメディアで話題となる「死後離婚(姻族関係終了届の提出)」への関心の高まりも、この背景を裏付けています。法務省の統計によると、姻族関係終了届の提出件数は、10年前と比較して約1.5倍に増加しました。
これは、配偶者の死後であっても「義実家との縁を切りたい」と願う切実な思いの表れです。佐藤さんの妻が抱いた「佐藤家の嫁として死にたくない」という感情は、現代の女性たちにとって決して特殊なものではないことがわかります。
ここで重要なのは、財産分与の法的な捉え方です。民法第762条および第768条に基づき、離婚時の財産分与は「婚姻中に夫婦が協力して築いた財産」が対象となります。たとえ夫名義の預貯金や退職金であっても、妻の内助の功があったとみなされ、原則として2分の1ずつの分割となるケースが一般的です。ただし、結婚前から持っていた資産や、親から相続した「特有財産」は分与の対象外となります。
佐藤さんの場合、離婚で財産分与をしても、経済的に困窮することはありませんでした。しかし、問題は「孤独・孤立」です。内閣府『令和5年版 高齢社会白書』では、一人暮らしの高齢者が増加するなかで、特に男性において社会的なつながりが希薄になる傾向が示されています。「近所の人とほとんど付き合いがない」と回答した割合は、単身男性では約3割にのぼります。
現役時代を会社という組織の中だけで過ごし、家庭を唯一の居場所としてきた男性は少なくありません。一方で、妻側は長年の地域活動や友人関係を通じて、夫がいなくても成立する強固なコミュニティを築いている場合が多いのです。
単身で1,500万円の資産、月17万円の年金……。数字上の豊かさとは裏腹に、深い喪失感が残ります。熟年離婚の本当の恐ろしさは、生活の困窮以上に、人生の目的そのものを奪い去る「社会的孤立」にあるといえるのかもしれません。