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「私はまだやれる!」大手メーカー元部長が直面した「定年後の再就職」という名の地獄
「まさか、あんな言葉を投げつけられるなんて……。これまでの40年近い社会人人生は、一体何だったのでしょうか」
佐藤武司さん(60歳・仮名)。誰もが知る大手メーカーで管理職を務めていた人物です。定年時に受け取った退職金は約3,500万円。子どもはすでに独立し、住宅ローンは完済。老後を見据えての預貯金は十分であり、定年後にお金を理由に働く必要はありませんでした。
しかし、佐藤さんは「まだ自分はやれるはずだ」というチャレンジ精神から、再雇用ではなく定年を機に転職を決意します。 「部長時代は数百人の部下を抱え、数億円規模のプロジェクトを動かしていました。その経験が、また別の会社で重宝されるはずだと考えたのです」。活動のなかでいくつかの会社が候補に挙がり、最終的に決めたのは、都内にある中堅の物流IT企業でした。役職は「シニアアドバイザー」。年収は現役時代の3分の1程度に下がりましたが、佐藤さんは「現場を支えるやりがいがあるなら」と快諾しました。
しかし、初出社の日から現実は非情でした。佐藤さんに用意されたデスクは、自身より20歳も若い40歳の田中部長の目の前。周囲は20代、30代の若手社員ばかりで、飛び交う言葉はすべて横文字のIT専門用語です。
「最初は戸惑いましたが、必死に覚えようとしました。でも、今までの会社とはスピード感が違う。AIを駆使して、どんどん仕事を進めていってしまう。とにかくついていくだけで必死でした」
事件が起きたのは、入社から3カ月が過ぎた頃の定例会議でした。佐藤さんが作成した資料に、わずかなデータの転記ミスがあったのです。かつての部下がいればチェックしてくれたであろう些細なミス。しかし、今の佐藤さんは一人の兵隊に過ぎません。会議室に、田中部長の怒号が響き渡りました。
「佐藤さん、これ何回目? あんた、大手で部長をやってたって自慢してたけど、結局こんな簡単な事務作業もできないわけ?」
全社員が座るオープンスペースで行われていた会議。周囲の社員は、関わりたくないという風に目を伏せ、キーボードを叩く音だけが響いていました。
「使えねえんだよ、金食い虫が! 会社はボランティアで雇ってるんじゃないんだ。高い給料を払ってやってんだから、せめて新卒以下のミスはやめてくれよ」
他の社員が見守るなかで、人格を否定するような言葉が投げつけられます。たとえ業務上のミスがあったとしても、大勢の前で晒し者にし、本人の能力を著しく貶めるような言動は、パワーハラスメントに該当しうる極めて不適切な行為といえるでしょう。
田中部長の言葉は、佐藤さんのプライドを粉々に打ち砕きました。大手の管理職だった男が、20歳も年下の男に、大勢の前で罵倒される――。佐藤さんは、ただ立ち尽くし、真っ赤になった顔を伏せることしかできませんでした。
「あの日以来、会社に行くのが怖くなりました。朝、玄関を出ようとすると動悸がするんです。妻には内緒にしていますが、結局、その一週間後に退職届を出しました。この年で挑戦なんて大それたことを考えなければよかった……」