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「先生」と呼ばれた男の、あまりに惨めな帰路
神奈川県内の戸建て住宅で一人暮らす、石田和雄さん(70歳・仮名)。元中学校教師で、現在は月20万円の年金で平穏な独居生活を送っていました。
「月に一度、孫の優斗(10歳・仮名)と翔太(8歳・仮名)が遊びに来てくれる。それが生きがいのひとつでした」
帰り際、2人に1万円ずつ、お小遣いを渡すのもお決まり。そして「そんなに甘やかさないで。まだ小学生なんだから」と、和雄さんの長女・小春さん(42歳・仮名。優斗くん、翔太くんの母)に怒られ、せっかく渡した1万円の入ったポチ袋は没収。それにもめげず、別に用意しておいたお小遣いの入ったポチ袋を2人の孫にコッソリ渡す――ここまでが一連の流れだったといいます。
「小春には、没収したお小遣いで『美味しいものでも食わせてあげな』と伝えてありました。この年になって親からお小遣いなんて面目が立たないでしょう。孫へのお小遣いなら、なんてことない」
そんな習慣が途絶えたときがありました。その原因は、石田さんの元にかかってきた「元教え子のサトウ」を名乗る男からの電話。男は「不倫相手を妊娠させ、示談金が必要になった。親には言えない。先生しか頼れる人がいない」と電話口で泣き崩れたといいます。
「教え子が困っているなら、なんとかしてやりたい。そう思ってしまいました。当時の教え子の名前や学校行事の詳細を正確に話すので、疑う余地がなかったんです」
石田さんは即日、銀行へ向かい、3回に分けて計180万円を振り込みました。しかし、その後、男とは連絡が取れなくなります。不審に思った息子に促され、石田さんは管轄の警察署へ向かいました。
警察での事情聴取中、石田さんは担当官から「典型的なオレオレ詐欺の手口です。なぜ、一度電話を切って確認しなかったんですか?」と疑問を投げかけられました。
「その言葉が、一番こたえました。現役時代、生徒たちには『冷静に判断しろ』と教えてきた。それなのに、自分はこんな単純な嘘を見抜けなかった。180万円という金よりも、自分がそれほどまでに愚かだったという事実が、受け入れられませんでした」
警察署を出たあと、ようやく事態を飲み込むことができたという石田さん。駅のベンチでしばらくの間、立ち上がることができなかったと振り返ります。
「情けなくて、情けなくて……」
精神的なダメージは大きく、しばらく誰とも会う気になれなかったそうです。特に孫の優斗くんと翔太くんには、どうしても会えませんでした。
「2人は『じぃじは昔、先生だったんだよね。格好いいね』と言ってくれるような子なんです。それなのに、合わせる顔がなかったんです」
それからというもの、何かと理由をつけて、自宅に引きこもる日々が続きました。