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データで見る「円の購買力低下」と海外移住のリスク
夢見た「優雅な年金生活」が、為替相場ひとつで「ジリ貧のサバイバル」に変わる。その現実は、佐藤さん夫婦にとって耐え難いものでした。
「妻が言ったんです。『言葉も通じない暑い国で、スーパーの値段を気にしながら暮らすなら、日本でおいしい刺身を食べていたほうがマシじゃない?』と。反論できませんでした」
タイの医療費の高さも懸念材料でした。年齢を重ねれば病院にかかる機会も増えます。円安が進むなか、現地で高額な医療費を払い続けるリスクは、もはや許容できるレベルを超えていました。移住から6年。佐藤さん夫婦は日本への帰国を決断しました。
「日本に帰ってきて、正直ホッとしています。牛丼は安いし、水はタダで飲める。もちろん、かつて夢見た『プール付きの豪邸』はありません。でも、為替レートに怯えながら暮らすストレスから解放されただけで、今の私たちには十分です」
佐藤さんのケースは、長期的な資金計画における為替リスクを浮き彫りにしています。日本銀行のデータによれば、2019年から2024年にかけて、対タイバーツの為替レートは約30%以上の円安(円の価値下落)が進行しました。また、外務省『海外在留邦人数調査統計(令和5年版)』を見ると、タイの在留邦人数は減少傾向(前年比2.5%減)にあります。円安と現地物価の上昇により、佐藤さんのように帰国を選択する人も増えていると推測されます。
「退職金と年金があれば海外で遊んで暮らせる」というモデルは、円が強かった時代の遺物となりつつあります。特に、収入(年金)が「円」で固定されている場合、移住先の通貨に対して円が弱くなれば、生活水準は強制的に引き下げられます。
これから海外移住を検討する場合、単なる「物価の安さ」だけでなく、将来的な為替変動に耐えうる「外貨資産の確保」や、インフレ率を考慮したより保守的な資金計画が不可欠といえるでしょう。