(※写真はイメージです/PIXTA)
「理想の家」に巡り合ってしまった夫婦
「場違いじゃないかな……」
都内のタワマン。内見の際、夫のゴウさんはネクタイの結び目を何度も直していました。35歳のゴウさんは、中堅IT企業で課長職を務めており、年収は650万円。妻のカナミさんは同い年で、メーカーの事務職として働き、年収は380万円です。夫婦合わせた世帯年収は1,030万円。決して少なくはない収入ですが、目の前に提示された物件価格は「9,800万円」でした。
自分たちがこの物件のメインターゲットではないことは、痛いほどわかっていました。もともと本当に買う気はなかったのです。憧れのタワマン。内見はタダだからと、足を運ぶことに。ですが、不動産業者に舐められまいと、この日は手持ちの中で一番いいスーツを引っ張り出し、カナミさんも数年前に奮発して買ったブランドバッグと一張羅のワンピースを合わせてきました。受付のアンケート用紙に「世帯年収1,030万円」と書き込む際、営業担当者に「この年収では無理だ」と鼻で笑われるのではないか。そんな予感に、二人の背中には冷や汗が流れていました。
ところが、一歩足を踏み入れると、その圧倒的な魅力は、二人の理性を一瞬で奪いました。瞬間に広がるパノラマビューと、ホテルのような内廊下、そして24時間体制のセキュリティ。「この環境で子どもを育てたい。あぁ、なにがなんでもここに住みたい」それはもはや、単なる住宅購入ではなく、理想の人生そのものへの渇望でした。
父が動いた理由
しかし、現実は甘くありません。意を決して申し込んだ銀行の事前審査では、「借入上限8,000万円」という回答が下されました。物件価格との差は1,800万円。諸費用を含めれば、手元の貯金500万円を差し引いても1,500万円以上が足りません。
普通ならここで諦める場面ですが、ゴウさんは最後に望みを託して、母とは離婚している地方都市で暮らす父(63歳)に相談を持ちかけました。タカシさんはかつて建設業界の第一線で働いていた、いわば「不動産のプロ」です。無謀な計画だと一蹴されることを覚悟していましたが、タカシさんの反応は意外なものでした。
「都内のタワーマンションだけは別格だ」
タカシさんは、バブル崩壊で地方の不動産が紙切れ同然になった歴史を目の当たりにしてきました。だからこそ、「資産価値が落ちない都内のランドマークなら、これは消費ではなく投資だ」と考えたのです。一人息子であるゴウさんが、東京に根を張る。そのことが、父としての誇りにも触れたのかもしれません。
タカシさんは、再雇用で得ている自身の収入(年収400万円)を合算することを承諾しました。そこで二人が選んだのは、「親子三人の収入合算」によるローン、さらに「返済期間50年」という超長期ローンの活用でした。これにより審査上の返済負担率を下げ、9,500万円という融資を引き出すことに成功したのです。