(※写真はイメージです/PIXTA)
「マンションの更新、断られちゃって」大晦日の非常識な来訪者
「インターホンが鳴ってモニターを見たら、義母がボストンバッグ2つを抱えて立っていて。思わずモニターを二度見しました」
都内・駅近のタワーマンションに住む会社員の高橋健二さん(46歳・仮名)。大手企業勤務で年収は約1,200万円。妻の里美さん(43歳・仮名)の収入を合わせると、世帯年収は1,800万円に達します。傍から見れば、誰もが羨む「パワーカップル」そのもの。しかし、その内実は、決して余裕のあるものではありませんでした。
「今ほどでないにしろ、マンション価格が上がっているときに買ったから。限りなく億ションに近い価格ですよ。住宅ローンの返済に、娘の中学受験費用。管理費や修繕積立金も高いし、毎月の収支はトントンで、ボーナスでなんとか貯蓄に回しているのが現実です」
そんな高橋家を襲ったのが、里美さんの母(健二さんの義母)良子さん(75歳・仮名)の「お正月の強襲」でした。里美さんは東北の出身で、母・良子さんは夫(里美さんの父)を亡くして以来、マンションで1人暮らしをしてきました。年金は月12万円ほどだといい、そのうち半分が家賃で消えていく――と嘆いていたのを健二さんは何度か聞いていました。「盆と正月に顔を見せる程度」で、生活の細部までは把握していなかったのです。
義母の来訪は突然でした。聞くと、舞台(お正月公演)を観に来たといいます。ただホテルを取ることができなかったのだとか。それであれば仕方がないと、突然のことではありましたが泊めることにした高橋さん夫婦。しかし、正月が終わり、健二さん、里美さんの仕事始め後も家に居座る良子さん。意を決して「お義母さん、帰らなくてもいいんですか?」と聞いたそうです。すると、悪びれる様子もなくこう言い放ちました。
「マンションね、取り壊しになるから出なきゃいけなくなって。次の部屋を探そうとしたんだけど、どこも貸してくれないのよ。タワマンなら部屋あるでしょ。しばらくここにいさせて」
健二さんと里美さんは言葉を失いました。事前に相談の電話一本もありません。しかも、問い詰めると衝撃の事実が発覚します。新たに家を借りるにしても貯蓄はゼロ。あるのは2ヵ月に1度振り込まれる年金だけだったのです。
「確かにリビングのほかに部屋は3つあって、ひとつは私の書斎という名の物置になっているので、引き続き、そこで寝泊まりしてもらっても構わない。ただ貯蓄ゼロで、どうやって新しく家を借りようと……」
何ひとつ根本的な解決方法を見いだせないまま、しばらく、良子さんの居候生活は続いたといいます。
「貸し渋り」にあう高齢者と、支えきれない現役世代
国土交通省『住宅確保要配慮者受入実態調査(令和元年度)』によると、賃貸人の67.4%が「高齢者の入居に対して拒否感がある」と回答。その主な理由は「家賃滞納への不安」や「居室内での死亡事故(孤独死)への懸念」などです。十分な資産や持ち家がないまま高齢期を迎えると、賃貸市場からはじき出され、事実上の「住宅難民」となってしまうリスクがあります。さらにいうなら、たとえ貯蓄があろうと、「高齢者というだけで貸したくない」というオーナーが多いのが事実。高齢者の家なしリスクは、想像以上に深刻です。
だからといって、家なしの親を引き取れるほど、現役世代の家計に余裕があるわけではありません。厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、子ども(児童)のいる世帯において、「生活が苦しい(大変苦しい、やや苦しいの合計)」と回答したのは、全体の64.3%。
所得五分位階級でみていくと、所得階級の最も低い層で「生活が苦しい」という回答は80.6%にもなります。しかし、それよりもひとつ上の層では91.7%、その上で82.7%、さらにその上で75.7%、一番上の層でも43.3%もの人たちが生活苦を訴えています。所得が増えるほど生活は楽になる傾向はあるものの、子育て世帯において、所得が上位20%に入る人たちの4割が生活苦を感じているのです。
一見、高収入に見えても、教育費負担や都市部の住宅価格高騰による重いローン負担などにより、親を扶養する余力がないのが現代のリアルなのです。
[参考資料]
国土交通省『住宅確保要配慮者受入実態調査(令和元年度)』
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』