(※写真はイメージです/PIXTA)
怪我を負った高齢父の身勝手な言い分
「まさか、父がここまで現実が見えていないとは思いませんでした。久しぶりに実家に帰って、背筋が凍る思いをしましたよ」
関東在住の会社員、佐藤聡介さん(52歳・仮名)。昨年末、佐藤さんは妻と大学生の娘を連れて、車で2時間ほどの距離にある実家に帰省しました。実家には、83歳の父と、78歳の母が二人で暮らしています。
きっかけは、父のちょっとした怪我でした。庭の手入れをしていたところ転倒、足首を骨折してしまったのです。命に別状はないものの、しばらくは松葉杖生活。日常生活のほとんどに介助が必要な状態でした。
「実家のリビングに入って驚きました。いつも小綺麗な母が、髪もボサボサでやつれていたんです。父はソファに座ったまま『おい、お茶』『新聞はどこだ』と指図するばかり。母は足を引きずりながら、必死に父の世話をしていました」
佐藤さんは見かねて、「お袋も大変だし、介護サービスを使おうよ。ヘルパーさんに来てもらうとかさ」と提案しました。しかし、父の反応は予想外のものでした。
「他人を家に入れるなんてとんでもない! 母さんがやるのが当たり前だ。夫婦なんだからな」
激昂する父。しかし、母の体力は限界に見えました。佐藤さんが「母さんが倒れたらどうするんだ」と食い下がると、父は平然と言い放ったのです。
「そのときは、聡介、お前がいるだろう。長男なんだから会社を辞めて戻ってくればいい。実家もあるし何とかなる」
佐藤さんは言葉を失いました。自分には今の仕事があり、住宅ローンも、子どもの学費も残っています。「会社を辞めて実家に戻る」など、現実的な選択肢ではないことくらい、少し考えたらわかるもの。しかし父の中では、「介護は妻がやるもの、無理なら長男がやるもの」という価値観が正解として存在していたのです。
「父は本気でそう思っている。母も『私がやらなきゃ』と思い込んでいて、共倒れ寸前でした。私が『施設』という言葉を出した瞬間、父は不機嫌になって黙り込んでしまって……。結局、何も解決しないまま自宅に戻ってきてしまいました」
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