学費高騰と低賃金が重なる現代、奨学金返済はキャリアや結婚を阻む構造的な足枷となった。もはや「自己責任」では済まされないこの残酷な現実に、社会はどう向き合うべきか。本記事では、アクティブアンドカンパニー代表の大野順也氏が、Aさんの事例とともに、奨学金を背負う若者の実態に迫る。
東京の大学に行きたい、なんて言わなきゃよかった…〈有名私大卒・丸の内勤務〉華やかな肩書きの裏で、手取り月26万円・29歳会社員女性が周囲に隠し続ける「秘密」 (※写真はイメージです/PIXTA)

酷な環境にある現代の若者たち

Aさんの話は、決して特別なものではない。むしろ、いまの若者が置かれている現実を象徴している。政府主導で企業の賃上げが進んでいるとはいえ、物価上昇には追いつかず、可処分所得は増えていない。個人の努力だけではどうにもならない構造のなかで生きている。

 

また、大学の学費は40年前と比べ、国立大学で約2.4倍、私立大学で約1.8倍にまで上昇した。親世代の収入が伸び悩むなか、学生の3人に1人が奨学金を利用せざるを得ないのが現状だ。これを単なる「本人の選択」「自己責任」で片付けるのは、あまりに酷である。若者が返済の不安から挑戦を諦め、結婚や出産を躊躇する社会に、明るい未来など描けるはずがない。

 

近年、この深刻な事態を打破しようとする動きが、民間企業の間で広がっている。若者の置かれている環境や価値観に対応した福利厚生を充実させることで、人材確保や生産性向上につなげる企業も増えている。たとえば、テレワーク環境整備手当、e-learningの導入、ベビーシッター補助、そして奨学金返還支援制度など。これらは単なる福利厚生の枠を超え、若者が安心して働き、将来を描くための土台として考えられている。

 

ほかにも、2021年に創設された「代理返還制度」を導入する企業は、令和7年9月時点で全国4,154社に達した。税制上の優遇も受けられることから、企業・従業員双方にメリットのある制度といえる。

 

若者の肩にのしかかる重荷を企業がともに背負うことは、単なる甘やかしではない。彼らが安心して働き、将来を描ける土台を作ることは、日本の持続的な成長を実現するための、極めて現実的な選択なのである。

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者