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「あなたのため」という言葉の呪縛
「息子が小学生のころ、私は間違いなく『教育虐待』の一歩手前にいたと思います。テストの点数が悪いとヒステリックに怒鳴り、良い点数を取ると過剰に褒める。あの子の人生のためだと言い聞かせていましたが、今思えば、私自身の見栄だったのかもしれません」
神奈川県に住む専業主婦・佐藤由美子さん(54歳・仮名)。夫の健一さん(56歳・仮名)は、当時激務で家に不在がち。「教育は君に任せる」というスタンスでした。
「妻が鬼のような形相で息子に勉強を教えているのを、私は見て見ぬふりをしていました。止めに入れば『あなたが協力しないからでしょ!』と火の粉が飛んでくる。だから、息子がリビングで泣きながら問題を解いていても、私は知らないふりをしていました」
結果として、長男の和人さん(仮名)は第一志望の難関私立中学に合格。その後も順調にエリートコースを歩み、現在は社会人2年目。立派に自立しました。 しかし、由美子さんの心には、当時の息子が見せた「怯えたような目」が、ずっとトゲのように刺さったままだったといいます。
転機は数ヵ月前、和人さんが結婚を機に実家を出ることになった引っ越しの前夜でした。 片付けを終え、久しぶりに親子3人で食卓を囲んでいたとき、健一さんが何気なく「お前、昔はよくリビングで泣きながら勉強してたなぁ。辛かったか?」と尋ねたのです。和人さんは苦笑いしながら、ビールを一口飲み、こう答えました。
「勉強? ああ、大嫌いだったよ。辛いに決まってるじゃん」
その言葉に、由美子さんの心臓が跳ね上がりました。さらに和人さんは続けました。
「僕がサボると、母さん、この世の終わりみたいな顔して泣くじゃない? あれを見るのが本当に嫌だったんだよ。僕が頑張らないといけないと、子ども心に必死だったんだと思う」
由美子さんは、その場に崩れ落ちそうになったといいます。「あなたのため」と強いてきた努力は息子のためではなく、母親の機嫌を取るための気遣いだったのです。