老後資金への不安が尽きないなか、年金に手を付けずに暮らす余裕のある生活は理想的です。平均的な年収ながら資産を築いた成功事例は魅力的ですが、そこには見逃せないリスクも存在します。ある男性のケースをみていきます。
「年金は1円も使いません!」年金月16万円・平均年収だった67歳男性が、貯金通帳を見て「高笑い」する理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

 統計から見る「年金のみ」で暮らすハードルの高さ

年金に頼らない生活を手に入れ、高笑いが止まらない佐藤さん。ただ、このようなケースは極めて稀な例と言わざるを得ません。現実的な数字を見てみましょう。

 

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)受給者の平均年金月額は、14万6,429円です。佐藤さんの「月16万円」という受給額は、平均よりもやや高い水準にありますが、それでも現役時代の収入と比較すれば大幅なダウンとなります。

 

一方で、支出はどうでしょうか。総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における可処分所得は月22万2,462円に対して、消費支出は月25万6,521円。毎月3万円以上の赤字になる計算です。年金だけでは足りず、毎月貯蓄を取り崩す――これが平均的な高齢者夫婦の生活です。

 

まず、佐藤さんのケースで真似してはいけない部分を整理しておきましょう。

 

・特定の業種に集中投資して数千万円を作る

・下落相場でレバレッジをかけた逆張りに挑戦する

 

もちろん成功したら大きな成功に繋がりますが、その分、リスクが大きすぎます。一方で、佐藤さんの事例から学べるのは、現役時代からの「長期・積立・分散」投資の効果と、生活水準をコントロールする家計管理の重要性です。

 

相場に振り回されず、パニック売りしない姿勢や、財務諸表を読む習慣、投資スタイルを状況に応じて柔軟に変えるスタンスは、真似したいところ。また現役時代はもちろんのこと、年金生活において生活コストを抑える努力も大切です。

 

「年金を使わない」という目標は極端かもしれませんが、少しでも資産寿命を延ばすための準備は早すぎるということはありません。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』

総務省統計局『家計調査 家計収支編 2024年平均』