親には少しでも良い環境で過ごしてほしい。そんな親孝行の思いから選んだ「終の棲家」が、思わぬ形で家計を圧迫することがあります。高級老人ホームに入居した母を持つ女性のケースをみていきましょう。
「親孝行のつもりが地獄でした…」入居金1,200万円の高級老人ホームで笑う母、破産寸前の63歳娘。88歳、米寿の祝いで気がついた「残酷な誤算」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「平均寿命」を信じてはいけない? 長生きがリスクに変わるとき

「親の長生き」が家計を圧迫するケースは、珍しいことではありません。最大の要因は、資金計画を立てる際の「寿命の読み違え」にあります。

 

多くの人は、日本人の平均寿命(男性約81歳、女性約87歳)を基準に計画を立てがちです。「88歳なら、平均寿命を超えているから十分だろう」と考えがちですが、ここに統計的な落とし穴があります。

 

厚生労働省が公表している「簡易生命表」には、0歳時点の平均余命である「平均寿命」とは別に、ある年齢の人があと何年生きられるかを示す「平均余命」が記載されています。

 

これによると、85歳女性の平均余命は「約8.68年」です。つまり、85歳まで生きた女性の半数以上は、93歳・94歳近くまで生きる可能性があるということ。さらに、90歳時点での平均余命も「約5.38年」あります。

 

入居一時金が高額な高級老人ホームの場合、償却期間(想定居住期間)内に入居者が亡くなれば未償却分が返還されることがありますが、償却期間を超えて長生きすればするほど、実質的なコストパフォーマンスは良くなります。しかし、それはあくまで「資金が尽きなければ」の話です。

 

田村さんのように「平均寿命プラスアルファ」程度で見積もっていると、実際の余命との乖離が生じます。特に女性は長寿化が進んでおり、95歳、100歳も珍しくありません。

 

親の資産が枯渇したあと、その負担は子世代にのしかかります。自分たちの老後資金を取り崩して親の介護費用を負担すれば、今度は子世代が「老後破産」する連鎖に陥りかねません。

 

施設選びや資金計画においては、「平均寿命」ではなく、95歳や100歳まで生きることを想定した「長生きリスク」を織り込むことが、残酷ですが不可欠な視点といえます。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年簡易生命表』