年齢を重ねるにつれ、子育てや仕事の責任が増し、忙しさに追われる日々のなかで「自分のことは後回し」になっている人も多いでしょう。しかし、ある日突然その“後回し”の代償が、人生を揺るがすかたちで現れることもあるようです。獅子にひれ氏の著書『定年が気になりはじめた50代おひとりさま女子たちのトリセツ』(ごきげんビジネス出版)より、著者の「転機」となった出来事とそこから得た教訓をみていきます。
4時間睡眠、往復4時間通勤。仕事と子育てに明け暮れ…総合職としてキャリアを重ねた50代女性、息子が家を出たあとに気がついた「28年で失った大切なもの」 (※写真はイメージです/PIXTA)

仕事、子育て…「自分の人生」はいつも二の次だった

子育ても一段落し、キャリアを積み重ねることが生きがいだった時期でもあります。一方で、振り返るとこれまで仕事と子育て中心で「自分の人生」はいつも二の次でした。

 

年末年始やお盆休みに学生時代の友人と会うことはありましたが、趣味らしい趣味をもつこともなく、地域活動に参加する余裕もありません。会社のつながり以外で新しい人と出会う接点も少なく、同年代の定年を迎える世代の女性と話をする機会もほとんどありませんでした。

 

これから先どう生きたいかを考えてこなかった自分に対し、焦る気持ちが出てきました。心のどこかで漠然とした不安を抱えていました。

 

「このまま働き続けられるのかな……」「息子が家を出たあと、私はひとり暮らしをしていけるのかな……」

 

そんな想いはあっても、何か行動するでもなく、日々のいろいろな締め切りに追われるなかで、いつも後回しにしてきました。

 

しかし転機は50代前半で訪れました。

重度の頚椎椎間板ヘルニアで医師から告げられた「最悪の可能性」

息子が就職のため家を出て、私はいよいよひとり暮らしになった年のことです。ある日突然の体調不良、原因は重度の頚椎椎間板ヘルニアでした。検査の結果「このままだと、次に衝撃を受けたとき、全身不随になる可能性がある悪化した状態。すぐに手術と入院が必要です」とドクターに告げられました。

 

手術をしても症状は取りきれない可能性があること、首を前方から切開する術式のため、合併症で声が出なくなったり、最悪の場合は死に至ったりするリスクもあるとのことで、術後に元どおりの健康な体に戻る確率は2分の1との説明を受けました。

 

あまりの突然の出来事に「なんで、私がこんなことに……」という驚きとショックは隠せませんでした。信じられずサードオピニオンまでしたくらいです。いろいろな角度から不安が襲いました。

 

「手術はうまくいくだろうか……うまくいったとしても、どこまで回復できるだろうか」「術後に元の生活に戻れるのだろうか? もし戻れなかったら、仕事は、生活は、私のこれからの人生は、どうなるのだろうか」

 

見えない将来への不安で押しつぶされそうになりました。まわりを見る余裕がなくなり、孤独感でいっぱいでした。まさしく負のスパイラルです。心を閉ざして苦しい時間を過ごし、眠れない日が続きました。これまで当たり前だった「健康」を突然失うかもしれない恐怖とともに、「健康」という土台のうえに「私の人生」があることを思い知る出来事になりました。