誰もが羨む経済的自立、いわゆるFIRE。しかし、それは必ずしも幸福な人生の終着点とは限りません。有り余るほどの時間とお金を手にしたとき、人は何を求め、どこへ向かうのでしょうか。ある40代男性のケースを紹介します。
う、うそだろ…〈貯蓄1億円〉超えでFIRE達成の48歳男性。半年後、「時給1,580円の居酒屋バイト」を始めた理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

FIREは「ゴール」ではなく「手段」

内閣府『満足度・生活の質に関する調査報告書2022』によると、世帯年収がある一定の水準(一説には800万円~1,000万円)を超えると、そこから幸福度が収入に比例して上昇するわけではないことが示されています。つまり、お金で得られる幸福には限界があるのです。

 

心理学者のアブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」に当てはめてみると、FIREは生命維持のための「生理的欲求」や、経済的な安定を求める「安全の欲求」を高水準で満たしてくれます。しかし、その上の段階にある、集団に属したいという「社会的欲求」、他者から認められたい「承認の欲求」、そして自分の能力を最大限に発揮したい「自己実現の欲求」は、仕事から離れることでむしろ満たしにくくなる可能性があります。

 

田中さんのケースは、まさにこの点を示しています。田中さんが居酒屋のアルバイトに求めたのは、お金ではなく、仲間との繋がり(社会的欲求)や、客からの感謝(承認の欲求)、そして働くこと自体のやりがいだったのでしょう。

 

FIREは、人生のゴールではありません。それはあくまで、より充実した人生を送るための強力な「手段」の一つです。経済的な基盤を確保した上で、社会との繋がり、他者への貢献、自己成長など、自分にとっての本当の幸福とは何かを改めて見つめ直すことこそが、真に豊かな人生を送るための鍵といえそうです。

 

[参考資料]

内閣府『満足度・生活の質に関する調査報告書2022』