親子の関係は、時に無意識のうちに「支え合い」から「支えられる一方」へと変化してしまうことがあります。特に親世代の高齢化が進む今、心身ともに限界を迎えながらも献身を続ける親たちの姿も。親の犠牲のうえで成り立つ生活は、いずれは終わってしまうもの。現状を変える勇気が必要です。
もう、あなたのお母さんはやめるわ…〈年金月13万円〉72歳母、涙の決断。〈月収50万円〉実家暮らしの45歳長男が招いた悲劇 (※写真はイメージです/PIXTA)

72歳母の「限界」…月収50万円の45歳長男に向けられた「最後通告」

鈴木 節子さん(72歳・仮名)。長男である健一さん(45歳・仮名)とのこれまでの関係について、一つひとつ言葉を選ぶように語ります。

 

「あの子が子どもの頃から、身の回りのことはすべて私がやってきました。それが母親の役目だと思っていましたし、ひとりっ子だったので……甘やかしてしまったと反省しています。まさか45歳になった息子に、70歳を過ぎた私が朝ご飯を作って起こしに行く毎日が続くなんて、夢にも思いませんでした」

 

節子さんは現在、厚生年金と国民年金を合わせて月13万円ほどの年金収入で暮らしています。一方、同居する長男の健一さんは、都内の中堅企業勤務。月収は手取りで50万円ほどあり、収入は安定しています。しかし、健一さんはこれまで家賃や光熱費として月に数万円を入れるのみで、食費や雑費のほとんどは節子さんの年金から賄われてきました。

 

家事は一切しません。朝食の準備に始まり、ワイシャツのアイロンがけ、掃除、洗濯、そして帰宅後の夕食の準備と後片付け。すべてを節子さんが一人で担っていました。

 

「『男は台所に立つもんじゃない』という、亡くなった夫の古い考え方も影響したのでしょう。仕方がない部分もあるのかもしれません。でも、もう私も若くはない。毎日、体は正直しんどいのです」

 

そんな生活が続いていたある朝、事件は起こります。健一さんの朝食を準備していた節子さんは、台所でめまいを起こし、その場に倒れ込んでしまったのです。幸い、すぐに意識は戻り、大事には至りませんでしたが、この出来事は節子さんに自身の体力の限界を痛感させるには十分でした。

 

「このままでは、健一と共倒れになってしまう」

 

危機感を覚えた節子さんは、ひとつの大きな決断をします。現在住んでいる一戸建てを売却し、自身は生活支援サービスが付いた高齢者向けの住宅へ移り住むことを考え始めたのです。数日後、節子さんは意を決して、その考えを健一さんに打ち明けました。

 

しかし、息子から返ってきたのは、母の体を気遣う言葉ではありませんでした。

 

「えっ、この家を売る? じゃあ俺はどこに住むんだよ。それに、毎日のご飯は誰が作るんだ? 俺は料理なんてできないぞ」

 

悪びれる様子もなく、自分の生活のことだけを心配する健一さんの言葉。その瞬間、節子さんのなかで、長年張り詰めていた糸がぷつりと切れました。72年間、母として、妻として、家族のために尽くし続けてきた人生。その最後の最後に待っていたのが、息子のこの自分本位な言葉だったのです。

 

「もう、あなたのお母さんをやるのは疲れたわ。もう無理」