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「家賃保証」と「新築」…老後の安心を求めたはずが
田中実さん(67歳・仮名)。60歳で1,800万円の退職金を受け取って、定年退職。以降は、無理のない範囲でバイトを続け、現在は月16万円の年金も受け取りながら暮らしています。4歳年下の妻・恵子さんも、もうじき年金生活に入りますが、かねて老後に対しては一抹の不安を抱えていたといいます。
「アルバイトの収入があるとはいえ、現役時代から大きく収入が減りました。年金もそれなりに受け取れるとはいえ、人生何があるかわからない。定年を迎えた後も、資産運用は必須だと考えていました」
長寿化の時代、もう少しゆとりが欲しい……そんな考えのなかで、ある日、不動産投資セミナーで魅力的な提案を受けます。
「都内の新築ワンルームなので資産価値は落ちません」
「独自のサブリース契約で10年間家賃を保証。空室の心配はありません」
担当者はそう言って、手間いらずで安定収入が得られることを強調。さらに「インフレになった場合、貯金では資産は目減りしてしまいますよ」という言葉が決定打となりました。退職金を口座に入れたままにしていた田中さん。退職金から1,500万円を投じ、勧められるがままに都内の新築ワンルームマンションを現金一括で購入。言葉通り、最初の2年間は毎月7万2,000円が滞りなく振り込まれ、田中さんは「これで老後は安泰だ」と胸をなでおろしていたといいます。
しかし、不動産投資家として3年目、契約更新時から悪夢は始まります。サブリース会社から届いたのは、一枚の書面。「近隣の家賃相場が下落したため、来月から保証賃料を6万5,000円に減額します」という、一方的な通知でした。
「話が違うじゃないか」と抗議しましたが、「契約書にも記載の通り、賃料の見直しは法律で認められた当社の権利です」と取り合ってもらえなかったといいます。田中さんは、なすすべもなく減額を受け入れるしかありませんでした。追い打ちをかけるように、マンションの管理費や修繕積立金は年々値上がりし、当初の想定をはるかに下回る収益に、田中さんの心労は募るばかり。
収益の悪化と不信感から、田中さんは購入から5年で物件の売却を決意します。しかし、複数の不動産会社に査定を依頼し、提示された金額は納得できるものではなかったといいます。
査定額は、1,050万円でした。1,500万円で買ったものが、たった5年で450万円も値下がりしていたのです。これ以上の資産価値の下落を恐れた田中さんは、その価格で売却。購入時の諸経費(約80万円)と売却時の諸経費(約38万円)を差し引き、5年間の運用で得た利益(約264万円)をすべて合わせても、手元に戻ってきたのは1,300万円に満たない金額でした。
「老後の安心のために投じた1,580万円が、300万円以上も目減りして返ってきた。残ったのは、悔しさと大きな損失だけです」