「法律で定められたとおりに財産をわける」――遺言書を作成する際、多くの人が最も公平で安全な方法だと信じるのが、この「法定相続分」に基づいた分割です。しかし、法律上の正しさだけでは語り切れない実態があるようです。本記事ではAさんの事例とともに、法定相続分に潜む意外な落とし穴について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
貯金3,000万円を遺されたが…遺族年金ゼロ・国民年金80万円のみの77歳妻、行政書士が助言した「夫の遺言」によって老後破産した理由【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫亡きあと、一人暮らしになる高齢女性

厚生労働省の「令和5年 国民生活基礎調査」によると、65歳以上の一人暮らし世帯は855万世帯にのぼります。このうち男性が304万世帯であるのに対し、女性は551万世帯と、3世帯のうち2世帯を女性が占めているのが現状です。

 

女性の単独世帯が多くなる背景には、平均寿命の違いがあります。厚労省の2024年の簡易生命表では、男性の平均寿命が81.09年である一方、女性は87.13年。夫が先に亡くなり、残された妻が10年ほど一人暮らしをするのは、比較的多いケースなのでしょう。筆者のごく身の周りにも、そうした高齢女性は何名もいらっしゃいます。

 

高齢女性の一人暮らしは、経済的にどう支えられているのでしょうか。今回は、夫亡きあとの生活が厳しいものとなってしまった、ある女性の事例を紹介します。

 

※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当て、一部脚色を加えて記事化しています。

「俺に黙ってついてこい」昭和気質な夫に惹かれて…

AさんとBさんは20代のころ、同じ製造業の会社に勤める同僚でした。3歳年上のAさんは、「俺に黙ってついてこい」という、昭和の男気にあふれたタイプ。一方のBさんは自己主張が控えめで、2年の交際を経てAさんのプロポーズを受け入れました。

 

結婚後Bさんは寿退職し、2人の子どもにも恵まれます。Aさんは残業も多く、一家の大黒柱としてもくもくと働いていました。結婚生活はいろいろあったものの、総じて順調だったといいます。ところが、Aさんが40歳に近づいたころ、Bさんに相談らしい相談もなく、Aさんは半ば一方的にこう告げたのです。

 

「社会保険労務士として独立する」

 

子育て真っ最中だったBさんは当然戸惑いました。夫はなにもいってこなかったものの、ここのところ、仕事がある日も休みの日も、夜な夜な机に向かっていたことをBさんは知っていました。それが資格試験に備えての勉強だったのでしょう。頑張っている姿を陰ながら応援していたものの、まさか独立するためとは思っていなかったのです。

 

しかし、これまで夫の判断に意見したことはなく、黙って受け入れるほかありませんでした。