「ミニマリズム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ミニマリズムとは、必要最低限の物だけに囲まれ、人間関係も絞ることで、ストレスから解放されることを目指す生き方とされています。服や家具など持ち物を極端に減らし、生活環境をシンプルにすることを理想とし、SNSやブログなどでそのライフスタイルや考え方を発信する人が多くいます。本記事ではAさんの事例とともに、ミニマリストの想定外について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
いつでも夜逃げできるようにしているの?(笑)…冷蔵庫・洗濯機を処分、同じ服が三着とマットレスのみの部屋。親も恋人も“切り捨てた”月収40万円の34歳会社員が「ミニマリスト」を卒業したワケ (※画像はイメージです/PIXTA)

ミニマリストの主張

その発言を聞いていると、驚くほど似通っています。

 

「必要なものは意外と少ない」

「持たないことで自由になれる」

「捨てることは選ぶこと」

「少ないほど、本質がみえてくる」

「これ、なくても困らないよね?」

「収納するなら持たない」

「思い出はモノじゃなく心にある」

「次に買うなら、いまあるものを手放してから」

 

モノを持たないことを極端に賞賛し、最低限のモノしか置いていない真っ白い部屋を美しいともてはやすのです。もちろん、整理整頓が好きな人がいるのは間違いありません。散らかった生活環境が我慢ならないというのであれば、理解できます。しかしミニマリストを自称する人たちの言葉を聞いていると、どうもそれは「思想」や「信仰」のようにも聞こえてきます。経典でもあるのかと思うほど同じ言葉を並べる姿に、もしかしたら別のところに理由があるのではないかと考えてしまうのですが……。

 

ここでは、そんなミニマリストを自称する34歳男性が、ミニマリストになった背景と、ミニマリストを辞めた理由をみていきます。

コロナ禍で目覚めたミニマリズム

<事例>

Aさん 34歳 男性

独身

東京都内在住

会社員 月収40万円 賞与別

 

Aさんは東京都内に住む会社員の独身男性です。年齢は34歳。18歳で都内の大学に進学し、そのまま就職しました。
住まいは築40年のかなり古いマンションの一室です。5年前に賃貸で引っ越してきました。老朽化が進み、管理組合が崩壊していることなどから空室が目立っています。同じ階にはおそらく何世帯か暮らしているはずですが、昼夜問わず物音ひとつしません。どうやら区分所有者の高齢者が多いようで、部屋から滅多に出てこないのです。

 

そこに住み続ける理由は、「静かだから」。家賃8万円の1DK。その破格の値段も選んだ理由のひとつです。

 

Aさんは5年前の2020年、コロナ禍で外出がままならなくなったころに、ミニマリストという言葉に出会いました。きっかけはインスタグラム。筋肉質の男性が、夜景が美しい高級マンションの一室に住み、ベッドしか部屋に置かず生活しているというライフスタイルの投稿をみたのです。その整理整頓されたシンプルな部屋と、自己管理が行き届いたような肉体美にAさんは「かっこいいなあ」「こんな生活なら落ち着くだろうなあ」と見惚れます。その動画のキャプションにはミニマリストという表現がありました。

 

「“捨てることは選ぶこと”か……」そう深く感心してしまいました。

 

いま考えると単なるイメージ投稿に影響されただけでしたが、とにかくシンプルに生きたい、ストレスフルな毎日から解放されたいと強く共感したのを覚えています。その開放感と安心感が刺さったのです。

 

仕事がフルリモートに変わったことを受け、それまで住んでいた職場近くのマンションを退去しました。そして選んだのが現在の古いマンションです。