「エアコンは不快で高い」というイメージから、他の冷暖房器具が選ばれることも少なくありません。しかし、その常識が光熱費を増やし、健康リスクにさえ繋がっている可能性があるようです。本記事では、一級建築士の松尾和也氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、エアコンにまつわる多くの「勘違い」について解説していきます。
日本の冬の家、CO2濃度は“基準値の5倍”…「灯油ファンヒーター」が、欧米では“自殺行為”にも見える、あまりに危険な理由【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

暖気が上から逃げ、下からは冷気

なぜこんなことになってしまうのか。ひとえに日本の大半の住宅の断熱や気密の性能が低いからです。

 

まず、気密と暖房の関係から見てみましょう。エアコンから出た暖気は軽いので上に行こうとします。その暖気は気密性が低いと上階もしくは屋外に逃げていってしまいます。下から吹き出しているファンヒーターなどであれば体の高さを通り抜けるので暖かさを感じることができます。しかし、エアコンの場合は天井に近い位置に設置されるので、暖気が人と交わることなく上がろうとします。さすがにこれでは暖かさを実感できません。

 

資料:松尾和也
[図表2]エアコンの暖気が上昇。気密性能が悪い場合、暖気が出ていき、代わりに下から冷気が入ってくる 資料:松尾和也

 

最近のエアコンでは、巨大なフラップで無理やり下に暖気を叩きつけるような機種が増えています。また、温風温度が低いエアコンで室内をファンヒーターと同じくらい温めようとすると、風量は多くなりがちです。このような理由から「エアコンの風が嫌」という意見が出てきます。下から高温の風を吹き出すファンヒーターの場合はここまでの気流は必要ありません。エアコンでも床置きタイプを選べばこの問題はかなり解消しますし、断熱性能が高い住宅であればそれほど強運転にする必要はありません。また、温度が低くて済めば済むほど暖気が上に上がろうとする力は弱くなります。

 

写真:松尾和也
[図表3]床置き型エアコンを設置した例。壁に対して半埋め込みにすることが可能で、すっきりと収められる 写真:松尾和也

 

しかし、話はこれだけでは終わりません。上から空気が抜けた分だけ下のほうから室外の冷気を引き込んできます。これが床をさらに冷やします。皮肉なことに暖房を強めれば強めるほど冷気の引き込みは強くなります。これはファンヒーターも同じ話です。

 

それにもう1つ、エアコンの効きが悪いと言われる理由があります。詳細は後述する表に掲載しますが、エアコンの温風温度はせいぜい50℃くらいと、ファンヒーターの80〜160℃に比べると非常に低いのです。日本の大半の住宅は断熱性が不十分です。その結果、床、壁、天井、窓の表面温度がとても低くなっています。この状態で暖かいという実感を得るには、空気の温度を必要以上に高くするか、輻射型の暖房器具を使って直接体に輻射熱を当てるかしなければなりません。これもエアコンが悪いわけではなく、住宅の断熱性能が低いことが原因です。