マイホームを建てる際には、窓や壁、お風呂など細かい設備にいたるまで、あらゆる判断が求められます。そのため、予算オーバーを避けようと、「できるだけ安くしよう」と考えがちです。しかし、初期費用を削った結果、寒い家・暑い家に長年住み続けることになれば、かえって「住宅貧乏」に陥る可能性があるようです。本記事では、一級建築士の松尾和也氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、マイホームを建てるうえで守るべき「7つの鉄則」を紹介します。
暖房費のために働く人生…世帯年収1000万円未満の日本人がわざわざ「寒い家」を建てている不思議【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「工事費が安い」は本当に建て主のため?

□健康で快適な住宅を実現できる会社は少数

□イニシャルコストを節約して省エネ仕様を落とすと「住宅貧乏」に

□「住宅貧乏」にならないための7項目を実践する

 

設計事務所や工務店は、建て主から設計や施工を受注することで生計を成り立たせています。ということは、建て主を幸せにして、満足させることが最優先であるはずです。その中で私たち実務者が関与できるところは、経済性と健康・快適性ではないでしょうか。

 

これまでは一般的に、「経済性=工事費」だと考えられていました。しかし、それは建て主のためではなく、自社のためだったのかもしれません。

 

本当に建て主のことを考えるのであれば、新築時だけでなく、30年や40年といった住宅の想定利用年数で掛かる総費用が最も経済的になるようにアドバイスしなければなりません。しかし、そんなことをしていると、競合他社に相見積もりで負けたり、建て主に対して手間の掛かる説明が必要になったりします。こうした面倒を避けるために、工事費を安く抑えてアピールしている面があったのではないでしょうか。

 

健康・快適性を追求する場合、適切な温度と湿度が重要なのは言うまでもありません。ただ、これらをうまく提案できている住宅会社は日本ではまだまだ少ないのが現実です。

 

(資料:松尾和也)
[図表1]建て主の家族を幸せにするために、設計事務所や工務店が関与できること (資料:松尾和也)

断熱性能が低い家を建てると、「住宅貧乏」になる

「金銭的に余裕のある人だけが良質な住宅に住めばいい」という考え方があります。しかし、それは先進国である日本のあるべき姿ではないでしょう。金銭的に余裕がなくても家を建てたい人はたくさんいます。

 

私は、高級キッチンなどの「ぜいたく品」を我慢しても、以下に示す省エネ性能に関する2項目が満たせないほど予算が厳しいのであれば、そもそも戸建て住宅は建てるべきではないと考えます。

 

(1)1999年基準(次世代省エネ基準)における天井、壁、床の断熱性能+実質U値1.4以下のサッシ

(2)C値が最低でも1以下

 

その理由を説明します。現在、ローコスト系の住宅会社でも次世代省エネ基準をうたう会社は少なくありません。ただ、窓は熱貫流率(U値、熱の伝わりやすさを示す指標で大きいほど熱を伝えやすい)3.5レベルが多くなっています。

 

窓のU値を1.4(樹脂窓、複層ガラス、アルゴンLow-E仕様)に変えるだけで、住宅の外皮平均熱貫流率(UA値、建物の断熱性能を示す値で大きいほど熱が逃げやすい)は0.87から0.57程度まで向上します。これで室内環境は、温度や湿度はもちろんのこと、健康の観点からも大幅に改善します。

 

それでも約120m2の標準的な住宅であれば、省エネ性能を上げて増すイニシャルコストは数十万円ほどにすぎません。

 

私の試算では、30年間のランニングコストを加味すると、省エネ化を図った住宅のほうが200万〜300万円ほど安くなります。金銭的に余裕がないために省エネ仕様を落とした人が、さらに貧しくなる構図です。まさに「住宅貧乏」です。このような負の連鎖が続く選択はするべきではないと考えます。