「エアコンは不快で高い」というイメージから、他の冷暖房器具が選ばれることも少なくありません。しかし、その常識が光熱費を増やし、健康リスクにさえ繋がっている可能性があるようです。本記事では、一級建築士の松尾和也氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、エアコンにまつわる多くの「勘違い」について解説していきます。
日本の冬の家、CO2濃度は“基準値の5倍”…「灯油ファンヒーター」が、欧米では“自殺行為”にも見える、あまりに危険な理由【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

エアコンだから乾燥するというわけではない

次に「乾燥する」という点を検証してみましょう。確かにエアコンで暖房していると、湿度計の湿度はみるみる下がっていきます。

 

しかし、この湿度は相対湿度と呼ばれるもので、空気中に含むことができる最大限の水分量に比べた割合です。空気は温度が高いほど多くの水分を含むことができるので、同じ水分量でも温度が上がるほど相対湿度は下がります。つまり温度が上がったからといって単位体積当たりの水分量が減っているわけではないのです。この現象は電気ストーブ、ホットカーペット、オイルヒーターなどすべての電気暖房器具で起こる現象で、エアコンに限ったものではありません。

 

「ファンヒーターなら乾燥しないのにエアコンを使ったときだけ本当に乾燥するんです」という意見もあろうかと思います。実はこの感覚は間違っていません。煙突が無いタイプのファンヒーター(FF式ではないもの)は灯油やガスを室内で燃やします。その結果、熱とともに水分を発するのです。

 

ちなみに、同じ熱量を取り出すときのCO2排出量の比は

 

灯油(1.34)>プロパンガス(1.24)>都市ガス(1)

 

となります。

 

また、水分発生量の比は

 

都市ガス(1.38)>プロパンガス(1.08)>灯油(1)

 

となります。だからファンヒーターによる暖房は乾燥せず、加湿器もいらないことが多いわけです。

 

出所:『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より引用
[図表4]灯油、都市ガス、プロパンガスの燃焼 出所:『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より引用

 

これだけ見るとスグレモノに見えますが決してそんなことはありません。CO2と汚染物質も同時に撒き散らすからです。6畳間で灯油のファンヒーターをつけたら30分もしない間にCO2濃度が5000ppmに達します。ビル管理法では上限が1000pmと定められており、その5倍にも当たる量です。これは眠気を誘発するだけでなく、健康上も問題のあるレベルです。だからファンヒーターには「30分に一度換気してください」と書いてあるのです。

 

しかしながら、そんなことをする人は少ないでしょう。逆に頻繁にそんなことをしていたら、暖房の効率が悪くなります。欧米の人からすると、室内に排ガスをそのまま吐き出しているファンヒーターは「車の排ガス自殺」と同じように見えるということです。暖炉の煙突が室内に直結されていると言ってもいいでしょう。

 

これなどまさに、日本の常識が世界の非常識である最たる例であると言えましょう。それでもファンヒーター無しでは過ごせないほどの住宅が多くを占めるのが日本の現実です。その場合、光熱費だけ見るなら灯油がベストです。しかし、CO2排出量の少なさ、水分発生量の多さからすると都市ガスのファンヒーターのほうが、まだましであることが分かります。