「太陽光パネルは、もはや儲からない」──メディアでは、一部の知識人によるこうした論調が散見されます。しかし、一級建築士である松尾和也氏は、その多くが具体的な計算に基づかない“イメージ”による言説だと断言します。本記事では、同氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、太陽光発電の本当の価値について解説します。
「太陽光は損」無責任な言説に終止符…発電量は毎年低下、利用は25年限り、物価上昇も控えめに。“最悪の条件”を重ねて計算しても「312万円の利益」が出る理由【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

太陽光パネルは本当に損?

□控えめな物価上昇を考えても、太陽光パネルを設置したほうが得

□太陽光発電の買い取り価格の低下にとらわれると損をする

□太陽光パネルの製造時のエネルギーは2年で回収できる

 

「知識人」と称される人の一部に、「太陽光発電は設置しないほうがいい」と公言する人がいます。しかし、こうした人は、イメージだけで発言している可能性が高いのが実情です。少なくとも太陽光発電の導入に伴う損益を計算すれば、そのような結論には至らないからです。

 

ここでは、極力単純でありつつも、反論のスキがない計算方法でその根拠をお示しします。

 

1kWの能力を持つ太陽光発電設備を国内で設置した場合、発電できる電力量には地域差が生じますが、日本全エリアを平均すると、年間1200kWh程度を発電することができます。日照時間が少ないエリアでも900kWh以上は発電可能で、多いエリアであれば1400kWhを超える地域もあります。製品の耐久性の観点で見ても、25年ほど前に設置した古い太陽光発電パネルの大半は、現状でも壊れずに稼働しています(発電量は当初よりも低下していますが)。今の太陽光発電パネルは、25年前の製品よりもはるかに耐久性が高くなっていますが、ここではとりあえず25年間は使えると仮定します。

 

ここで、経年に伴う発電量の低下を無視すると1200kWh×25年=3万kWh分の電力を発電することになります。しかし、実際には年率で0.25~0.5%程度、発電量は低下するので、ここでは最も耐久性能が悪いケースを想定して、0.5%ずつ発電量が落ちると仮定します。すると25年間の総発電量は、2万8267kWhと算出できます。細かい数字を切り捨てると、2万8000kWh発電できるとみなせます。

 

2024年11月現在、日本の家庭で使われている電気の実質的な平均単価は35円/kWhです。今後25年間この単価が継続すれば、2万8000kWh分の電気を購入するために98万円を要します。しかしそれどころか、2024年11月時点において消費者物価指数は前年比で2.7%増加しました。諸外国でも将来の電気代をシミュレーションする際には、3%程度の物価上昇率が続くと見込むケースが多くなっています。

 

今回は控えめに2%の割合で価格上昇が続くと仮定してみました。すると25年間の電気料金の平均単価はなんと約45円/kWhに達します。先ほど計算した2万8000kWhの電気のうち、「おひさまエコキュート」が設置されている住宅であれば約半分の1万4000kWhが自家消費分となり、1kWh当たり45円の価値を持ちます。また、発電した電力を固定価格買い取りに回す当初10年間で自家消費できなかった5600kWh分については、1kWh当たり16円の価値を持ちます。

 

固定価格買い取り分のうち、10年目から25年目にかけて売電する8400kWhについては、現在の10年目以降の最高買い取り単価の10円の価値を持つとします。これらを計算すると1万4000kWh×45円/kWh+5600kWh×16円/kWh+8400kWh×10円/kWh=80万3600円という金額が出てきます。これが太陽光発電を設置したことによって25年間で得した金額(設置費用を含まない)と言えます。

 

対して1kW分の太陽光発電を設置するのに必要な費用は、市場平均で25万円程度に収まります。25年間で見ると、パワーコンディショナーについては1度交換が必要で、これに約20万円を要します。6kW設置しているのであれば、1kW当たりで換算すると3万円程度の負担でしかありません。