「エアコンは不快で高い」というイメージから、他の冷暖房器具が選ばれることも少なくありません。しかし、その常識が光熱費を増やし、健康リスクにさえ繋がっている可能性があるようです。本記事では、一級建築士の松尾和也氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、エアコンにまつわる多くの「勘違い」について解説していきます。
日本の冬の家、CO2濃度は“基準値の5倍”…「灯油ファンヒーター」が、欧米では“自殺行為”にも見える、あまりに危険な理由【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

光熱費はエアコンが安い

次に「光熱費が掛かる」ということを検証してみましょう。ここでは他の機器と比較できる暖房と除湿について見てみたいと思います。

 

資料:松尾和也
[図表5]暖房能力1kWh当たりの比較。エアコン実効COP=3 〜4、電気=35円/kWh、都市ガス=170円/m3(1m3=12.8kW)として計算。電気料金は関西電力、月間延べ利用量300kWhまでとして試算 資料:松尾和也

 

比較してみると、エアコンがいかに安いかがよく分かります。特に深夜電力を使う場合は圧倒的な安さです。灯油は昔に比べると随分高くなりました。それでもエアコンに次いで安くなっています。また一般家庭でよくされがちな「エアコンは高くつくからホットカーペットを使おう」という行為がどれほどもったいないことか。こんなことが日常的に行われているのが無念です。

 

もう1つ別の角度から検証してみたいと思います。暖気の上がり方を、ガスファンヒーター、灯油ファンヒーター、床置き型エアコンの3つで比較してみます。空気は熱いほど軽く、上に上がるスピードは速くなります。ということは、床吹き出しという条件にそろえた場合、暖気が最も上がりやすいのは灯油ファンヒーター、次にガスファンヒーター、最も上がりにくいのはエアコンと推測できます。

 

これまた参考までですが、温度ごとの空気の密度を計算する公式を簡略化した式は以下の枠に示すようになります。

 

空気密度(kg/m3)≒1.29/(274+空気温度/273)

除湿もエアコンのドライがベスト

除湿においても消費電力当たりの除湿量を比較してみました。

 

資料:松尾和也
[図表6]3タイプの除湿機とエアコンのドライ運転で、消費電力当たりの除湿量を比較。エアコンが高効率であることが分かる 資料:松尾和也

 

数年前まで家電量販店に置かれていた一般的な除湿機はコンプレッサー式、ゼオライト式、ハイブリッド式のどれかですが、どれと比較してもエアコンのドライ運転のほうが圧倒的に効率が良いと分かります。にもかかわらず「エアコンがあるのにわざわざ除湿機を使う」という無駄が至る所で行われています。これも本当にもったいない話です。

 

世間では省エネといえば設備や発電にばかり目が行きがちです。しかし、それ以前にこういった勘違いを是正するだけでも、おそらく日本の総使用エネルギーを数パーセント減らせるだけの可能性を持っていると思います。

 

 

松尾 和也
一級建築士
(株)松尾設計室 代表取締役