住宅の断熱性能は、快適さや光熱費に直結する重要な要素。多くの場合、その仕様を専門家である建築士に一任するケースが少なくありません。しかし、建築士と施主が求める「暖かさ」の体感には、しばしば大きな隔たりが存在するようです。本記事では、一級建築士の松尾和也氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、快適なマイホームを建てるためのポイントを解説します。
3割が「無断熱」、最低基準を満たす家はわずか13%…日本人の6人中5人は「寒い家に住んでいる」絶望的事実【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

暖かさを求める人、求めない人

余談ですが、最近は女性も目立ってきましたが、日本の設計担当者は男性が多いようです。男性の場合、寒がりだと答える割合は約3割です。先ほどの6人に1人という割合を掛け合わせると、「寒がりでかつ暖かい住宅に住んでいる設計担当者」すなわち「暖かい住宅を親身になって設計してくれそうな担当者」である確率は設計者18人に1人くらいではないのか。新築する人にとってはそんなことが言えるかもしれません。

 

ここで、もう1つ押さえておかなければならない現実があります。地方郊外の高齢者は生涯無断熱住宅にしか住んだことがないという人がほとんどだということです。そういう人は身体的にも住宅の側面からも最も断熱化が必要とされる条件がそろっています。しかし、暖かさの快適性を知らないが故に、いっこうに断熱改修をしようという意識が働きません。

 

また一般的にそういった住宅は非常に面積が広く、全体を断熱改修するのが極めて難しい状況が多く存在します。さらには、貯金が豊富な世帯が多く、非常に高額な光熱費を払える状況にあるということも改善が進まない大きな要因だと思います。

 

一方で、以下のような人は断熱性を求める傾向が強いと言えます。

 

●大学時代、独身時代、新婚時代に1度はRC造の中部屋に住んでいた

●北海道もしくは欧米に居住したことがある

 

住宅を設計する際、ほとんどの実務者はその地域の省エネ基準のみに基づいて断熱仕様を決める傾向にあります。

 

しかし、暖かい住宅を作るということに関して言えば、建て主の寒がりの度合い、そして今現在の住居の暖かさ、かつて住んだことがある住居の暖かさが非常に重要になってきます。私の場合「寒がりでかつ北海道出身、もしくは南向きマンションの中間階の中部屋に住んでいた」というような建て主から依頼を受けた場合には細心の注意を払って設計します。具体的に言うなら「新居より狭い従来の住居で支払っていた光熱費以下で、従来と同等以上の暖かさを実現」させることができなければ、決して満足してもらうことはできないからです。

 

これは非常に厳しい条件で、特にマンションから戸建て住宅に引っ越す場合は「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」(HEAT20)のG2グレードというレベルの性能ぐらいを満たしておくことが最低限必要になってくると考えるのが無難です。

 

 

松尾 和也
一級建築士
(株)松尾設計室 代表取締役