住宅の断熱性能は、快適さや光熱費に直結する重要な要素。多くの場合、その仕様を専門家である建築士に一任するケースが少なくありません。しかし、建築士と施主が求める「暖かさ」の体感には、しばしば大きな隔たりが存在するようです。本記事では、一級建築士の松尾和也氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、快適なマイホームを建てるためのポイントを解説します。
3割が「無断熱」、最低基準を満たす家はわずか13%…日本人の6人中5人は「寒い家に住んでいる」絶望的事実【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「プロなら暖かい家にしてくれる」という間違い

□暖かい住宅に住んだ経験のある人は、6人に1人くらいしかいない

□地方郊外の無断熱住宅に住まう高齢者には、改修の意識が働かない

□「南向きマンションの中間階の中部屋に住んでいた」経験が生きる

 

以前、「前に住んでいた住宅が寒かった人か、逆に暖かかった人ほど次に建てる住宅に高断熱を求める傾向にある」という、東京大学の前真之研究室が実施したアンケート調査の結果を見ました。確かにその通りだと思います。

 

では日本において暖かい住宅に住んだことがある人というのはどのくらいいるのでしょうか。気になったので概算で推計してみました。日本には既存住宅が約6500万戸あると言われています。世帯数はおよそ5600万世帯、人口は約1億2400万人です。

 

資料:国土交通省のデータを基に作成
[図表1]2023年における日本の世帯数や住宅棟数 資料:国土交通省のデータを基に作成

 

まずは繰り返しになるのですが、既存住宅の断熱性能の分布を表すグラフ(図表2)を見てください。いつも講演などの際に言うのですが、このグラフの中で、私が暖かい住宅として「最低限許せる」レベルに該当するのが1999年(平成11年)基準レベルで、たった13%しかありません。

 

資料:国土交通省の2021年の資料を基に日経BPが作成
[図表2]日本の既存住宅の省エネ基準への適合状況。次世代省エネ基準レベルは13%ほどしかなく、無断熱が3割ほどを占める。
2019年時点のデータ
資料:国土交通省の2021年の資料を基に日経BPが作成

 

次に戸建て住宅とマンション比率を見てみたいと思います。2023年の数値でおよそ53%が戸建て住宅、45%が共同住宅となっています。

 

これら2つのデータから戸建て住宅でかつ1999年基準を満たしている比率は13%×53%=6.89%という結果になります。