家庭における理想の夫像、理想の父親像……多くの場合、無言のうちに求められる役割として存在しています。しかし、その重圧に疲弊するケースも少なくありません。ある男性の言葉に耳を傾けてみましょう。
もう、良き夫を演じるのは限界だ…〈月収49万円〉42歳サラリーマン〈小遣い月2万円〉、豪華な妻の手作り料理に絶望するワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

飲みの誘いも断り帰宅も、食卓を彩るのは…

都内の中堅メーカーに勤務する中村大輔さん(42歳・仮名)の月収は49万円。これはいわゆる「額面」であり、税金や社会保険料が引かれた後の手取りは37万円ほどになります。厚生労働省『令和6年賃金構造基本統計調査』によると、大卒正社員・40代前半男性の平均月収は43.7万円です。この平均値と比べても、中村さんの収入は決して低くありません。

 

そんな中村さんですが、ランチ時と帰社前に憂鬱になることが多いと話します。

 

「中村さん、今日、一緒にランチいかがですか?」

 

同僚や後輩からの誘いに、「ごめん、俺、持ってきているから」と断るのが定番。持参したおにぎりを自席で食べ、お茶で流し込むのが日課です。「自分の席で食べるほうが忙しいアピールになるんです」

 

「中村さん、今夜どう? 軽く一杯」

 

帰り際に誘われても、彼の答えはいつも同じです。「ごめん、今日は妻が早く帰ってこいって言ってて……」。愛妻家を装い、当たり障りのない理由で断るのが常です。

 

本当の理由は、誘いに乗るだけの金銭的な余裕がないからです。彼が1ヵ月に自由に使えるお金は月2万円。今年に入り、妻の申し出でさらに1万円減額されたそうです。

 

ソニー損害保険株式会社が20代~50代の全国の持ち家家庭でお小遣い制の800名を対象に行った調査によると、お小遣いの平均は2万8,969円。2025年(1月~5月)のお小遣いについて、2024年と比較して「変わらない」人は75.1%、「減った」人は12.4%と、物価高のなかでもお小遣いが増えていない人が87.5%にのぼります。

 

中村家も物価高で家計が厳しい状況ですが、理由はそれだけではないようです。その一端は、日々の食事に表れています。ある日の夕食。テーブルに並ぶのは、有機野菜をふんだんに使った彩り豊かな料理の数々。

 

「やっぱり子どもの体を考えたら、食材に妥協はできないからね」

 

小学生の息子に優しく微笑みかける妻に、中村さんは「そうだね」と頷くしかありません。さらに食後、妻が広げたのは、オンライン英語教材のパンフレットでした。

 

「周りの子はもう始めているみたい。これからの時代、英語は必須だし、将来のために必要よね」

 

妻の言うことは、すべてが「子どものため」。それは疑いようのない正論であり、親としての深い愛情に他なりません。

 

だからこそ、中村さんは「もう少し小遣いを上げてほしい」とは、口が裂けても言えません。そんなことを口にすれば、「家族のことより自分のお金が大事なの?」と妻を失望させてしまうかもしれない――その思いが、中村さんの口を固く閉ざさせてしまうのです。