(※写真はイメージです/PIXTA)
「心配なんていらない」と笑う母に安心していたが…
都内のメーカーに勤務する田中健一さん(50歳・仮名)。3年前に父が亡くなってからは電車で1時間ほどの実家でひとりで暮らす母・トシ子さん(79歳・仮名)に、月に1、2度は会いに行っていました。「やはり高齢者のひとり暮らしですから、心配なので」と健一さん。しかし家は常に整理整頓が行き届き、「心配なんていらないよ、何も変わらないから」と笑う母。息子が来るたびに、テーブルには手料理が何皿も並べてもてなしてくれます。その「いつも通り」の光景に、安心感を抱いていたといいます。
しかし何気ない会話のなかに、ちょっとした変化を感じていたといいます。それは、ある休日のこと。健一さんが「最近、趣味の手芸はしているの?」と尋ねると、トシ子さんは笑いながら、使い古した道具を指さします。「もう目も悪くなったし、材料も高くてね。今は古い布で繕い物をするくらいよ」。かつては季節の花や動物を生き生きと刺繍し、健一さんの子どもたちに手作りの小物を贈ってくれるのが母の楽しみでした。その楽しみを、知らず知らずのうちにやめていたのです。
さらに、昔は仲の良かった友人との付き合いが減っていることに気づいた健一さんが「今度、XXさんたちと食事にでも行ったら?」と促します。するとトシ子さんは、「みんなでバス旅行に行こうって誘われたんだけど、なんだか疲れちゃうからって断ったのよ」と、曖昧な理由で言葉を濁しました。
そんなトシ子さんの反応に、どこかもやもやとしたという健一さん。このあと、近所の人と世間話をしているトシ子さんの声がうっすらと聞こえてきてハッとしたといいます。話は、そのとき話題になっていた“給付金”のこと。
「一過性の支援ではまったく意味がないわ」
「あと、2万円ほど、あれば楽なんだけど」
その言葉を聞き、母が「疲れるから」「もう歳だから」という理由で諦めているのではなく、本当はお金が足りずに生活が苦しいのではないかという疑念がわいてきました。そして悪いと思いつつ、タンスにしまっている預金通帳をこっそりと見てみると……。
「母は月に15万円くらい年金をもらっているから大丈夫、と言っていましたが……年金支給日に振り込まれていたのは16万円ほど。これは2ヵ月分だから月8万円。これで何とかやりくりをしていたんですね」