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公務員を襲う、長時間労働、カスタマーハラスメント
新型コロナウイルスの感染拡大以降、地方公務員の長時間労働が問題となっています。本来、時間外労働には労働基準法に基づく「36(サブロク)協定」が必要ですが、多くの公務の職場では協定なしに行われているのが実情です。その背景には、労働基準法第33条の「公務のために臨時の必要がある場合」という規定の存在があります。この条文が拡大解釈され、通常業務にまで適用。時間外労働が青天井となっているケースが散見されます。
この問題は、職員の健康を脅かすだけでなく、過度な人員削減や住民サービスの低下にも繋がっています。こうした状況を改善するため、各自治体の労働組合では人員増を求めるとともに、問題の根幹である労基法第33条の改正を国に求める「33キャンペーン」などの取り組みも始まっています。
また田中さんが受けたような、顧客や利用者からの理不尽なクレームや暴言は、いわゆる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。単なる「クレーム」とは一線を画す、働く人の尊厳を傷つけ、心身に深刻な影響を及ぼす社会問題です。
総務省が地方公共団体の職員を対象に行った『地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査』によると、過去3年間で自身がカスタマーハラスメント(カスハラ)を「受けたことがある」と回答した職員は35.0%に上り、51.3%が「同じ職場の同僚などが受けているのを見聞きしたことがある」と答え、カスハラが広く発生している実態が明らかになりました。
ハラスメントは主に「電話やメール等での応対時」(72.5%)に発生し、そのきっかけとして最も多かったのは「行政サービスの利用者・取引先の不満のはけ口・嫌がらせ」(72.5%)でした。内容としては「継続的・執拗な言動」(72.3%)や「威圧的な言動」(66.4%)が多く、これらの被害によって職員の80.4%が「怒りや不満、不安など」を感じ、57.6%が「仕事に対する意欲や生産性が低下した」と回答するなど、深刻な心身への影響が見られます。
なぜこうしたカスハラは起きてしまうのでしょうか。背景のひとつに、「税金で食っている」という言葉に象徴される、公務員に対する一部の根強い偏見や誤解があります。行政サービスを「受けて当たり前」と考え、職員を個人として尊重する意識が欠如している場合、過剰な要求や理不尽な怒りとして表出してしまうのです。
調査では、カスハラについては、各部門における共通的な対応策として、1人で対応させず組織的に対応を行い、そのうえで、部門によっては部門の特性に応じた対応も必要だと指摘。一方で、「クレームのすべてがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的に見て社会通念上相当な範囲で行われたものは、言わば正当なクレームであり、カスタマーハラスメントに該当しないことに留意する必要」としています。
田中さんの後日談。上司に相談し、診断書を提出して休職することを選択。休職期間中、彼は専門家のカウンセリングを受け、自分がいかに追い詰められていたかを客観的に見つめ直すことができたといいます。
「あのまま働き続けていたら、本当に壊れてしまっていたかもしれません。休んだことで、初めて自分を大切にするという当たり前のことに気づけました」
[参考資料]
総務省『地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査』