(※写真はイメージです/PIXTA)
鳴りやまない電話、終わらない窓口対応…心身をすり減らす日々
市役所に勤務する田中健一さん(30歳・仮名)。その一日は、鳴りやまない電話の対応から始まるのが常だといいます。
「住民のため、地域のために」
そう志して、大学卒業後に公務員に。しかし、理想と現実のギャップは、年々心を蝕んでいったそうです。慢性的な人員不足で、一人当たりの業務量は限界を超えています。窓口に座れば、複雑化する制度について矢継ぎ早に質問が浴びせられ、受話器を取れば、時に理不尽な要求が投げつけられる。昼食をゆっくりとる時間もなく、気づけば窓の向こうは暗くなっている。そんな毎日が、長らく続いているとのことです。
「最近は、朝起きるのが本当につらいんです。ベッドから体を起こすだけで、鉛のように重い疲労感が全身にのしかかってくる……」
そう言ってうつむく田中さんの手取り月収は、残業代を含めて約37万円。決して低い金額ではありませんが、心身をすり減らす労働の対価として、果たして見合っているのか。民間企業に就職した友人たちの話を聞くたびに、選択を間違えた……と思うときも多いそうです。
その日も、田中さんは窓口で高齢の男性の対応に追われていました。提出された書類に不備があり、手続きを進めることができないのです。
「申し訳ございません。こちらの欄にご記入がないと、どうしても受け付けることができず……」
田中さんは、何度も丁寧に、言葉を選びながら説明を繰り返します。しかし、男性の表情はみるみるうちに険しくなっていきました。そして、数分間のやり取りの後、男性はカウンターを叩き、怒声を張り上げたのです。
「いい加減にしろ! 税金で食ってるくせに、これっぽっちの融通も利かないのか!」
その瞬間、田中さんのなかで、何かがぷつりと切れました。「もう、限界だ」という無力感だけが残ったといいます。