マイホームを建てる際には、窓や壁、お風呂など細かい設備にいたるまで、あらゆる判断が求められます。そのため、予算オーバーを避けようと、「できるだけ安くしよう」と考えがちです。しかし、初期費用を削った結果、寒い家・暑い家に長年住み続けることになれば、かえって「住宅貧乏」に陥る可能性があるようです。本記事では、一級建築士の松尾和也氏の著書『間違いだらけの省エネ住宅』(日経BP)より、マイホームを建てるうえで守るべき「7つの鉄則」を紹介します。
暖房費のために働く人生…世帯年収1000万円未満の日本人がわざわざ「寒い家」を建てている不思議【一級建築士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

車や保険よりも、「住宅」の節約が効く

最後に、軽視されがちな(3)冬の日射取得、(4)夏の日射遮蔽について解説します。私の感覚では、「冬の日射取得」は暖かさを得るための要素のうち5割、「夏の日射遮蔽」は涼しさを得るための要素のうち7割を占める最重要項目です。

 

例えば、南面の1間幅、高さ2m(3.3m2)の掃き出し窓1カ所では、晴れていれば、夏冬ともコタツ1台分の熱がそれぞれ出入りします。冬はこの「熱を取り入れること=お金」になりますし、夏は「熱を遮ること=お金」となります。

 

世帯の年収が多ければ、「冬の日射取得」「夏の日射遮蔽」を無視した住宅を設計してもお金(エネルギー)で補填することが可能となります。ですが、最低でも世帯年収が1000万円を超えない限りは、この7項目をすべて満たすべきだと私は考えています。

 

ファイナンシャルプランに関する書籍を読むと、車関連費用や保険関連費用、携帯電話関連費用といった項目ばかりが削減項目として記載されています。今回紹介した7項目には触れられていません。

 

一般的な家庭では、燃費が13km/Lの車で年間1万kmくらい走行しています。一次エネルギー換算だと27GJ消費していることになります。対して住宅は、平均で75GJと約3倍も消費しています。

 

車、保険、携帯電話は、どれも変更しようと思えば極めて短い期間で変更することができます。しかも変更する度に、競争や技術革新によって性能やサービス内容が上がる場合が多いです。一方、今回示した住宅の省エネ性に関する7項目は、一度採用すると簡単には変えられない項目ばかりです。住まい手の多くは、その項目と30年以上にわたって付き合わなければなりません。

 

断熱リフォームの工事費は新築よりもコストが掛かってしまうので、省エネ性能の向上はやはり新築時にきちんとやっておくことが望ましいのです。これらを考慮せずして、まともなファイナンシャルプランなど出せるはずがありません。

 

欧米では、3世代で1回の住宅ローンを負担することが多いと言われています。一方、日本では世代ごとに建て替えて毎回、住宅ローンを抱えています。幸せに暮らすためのマイホームが負担になって「住宅貧乏」にならないようにするためにも、設計事務所や工務店は7項目の実践を肝に銘じてもらいたいと思います。

 

 

松尾 和也
一級建築士
(株)松尾設計室 代表取締役