2025年の日経平均株価は4万円台に定着、昨年はNISA制度を抜本的に拡充した。この追い風を受け、日本人の投資への関心は急速に高まっている。日本証券業協会の調査によれば、NISA口座数は右肩上がりに増加しており、特に「つみたてNISA」においては、口座開設者の実に9割が投資未経験者であった。この数字は、これまで投資と無縁であった層が、新たに参加者として市場に流入している現実を物語っている。一見すると、これは日本人の金融リテラシーが向上している証左のようにも思えるが、その実態は大きく異なる。投資熱の高まりとは裏腹に、金融教育の浸透は遅々として進んでいないのが現状で……。
月収39万円の56歳会社員、覚悟の決断「住宅ローンは80歳完済です」…老後資金が消える悲劇の始まり (※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ人は、目先の利益に目を眩ませるのか

祥子さんの事例は、金融知識の乏しい人が、いかにして目先の「儲け話」に目を眩ませてしまうかを示している。本来、臆病な性格であるはずの彼女のリスク感覚を麻痺させたのは、老後への強い不安と、それを解消してくれるかのようにみえた知人の成功体験であった。

 

彼女の家計は、住宅ローンという大きな固定費により、収支の余裕がほとんどない。わずか10年という運用期間で、老後を賄えるほどの利益を投資で得ることは、極めて非現実的である。家計の余裕も、時間の余裕もないのだ。祥子さんがいますべきことは、繰上げ返済の原資を貯め、万が一の病気に備える現金を確保し、65歳以降も働き続けられるよう準備すること。そのうえで、余剰資金があれば、少額から積み立て投資を始めるのが賢明な順序だろう。現状では、無理な運用はむしろ老後資金を失う結果にもなりかねない。

 

現在の投資ブームの裏側では、祥子さんのような、本来投資をすべきではない、あるいはその余裕がない人までが、リスクを背負いはじめている危険がある。YouTubeやSNSでは市場の好況ばかりが強調され、冷静な意見は無視されがちだ。投資は、目先の欲で飛びつくものではない。まずは自らのライフプランと向き合い、許容できるリスクを見極めることから始めるべきである。