家族との突然の別れ。その深い悲しみに追い打ちをかけるように、「遺された家族の生活費がない」という経済的な危機が訪れることがあります。そのためのセーフティーネットが「遺族年金」ですが、受給要件の厳しさと複雑さは、あまり詳しく知られていません。本記事では、河原優美子氏の著書『知らないと損する!お金の手続き』(ごきげんビジネス出版)より、遺族年金のしくみと受給要件について解説していきます。
夫が遺してくれたのは“もらえない年金”だった…。保険料の「3分の2納付」の壁で、遺族年金の権利を失う悲劇的なケース【社労士が警鐘】 (※写真はイメージです/PIXTA)

遺族基礎年金とは?

亡くなった当時18歳未満(高校を卒業する3月まで)の子がいる場合は、遺族基礎年金が支給されます。障害年金2級に該当する子がいるときは、その子が20歳になるまで遺族基礎年金を受け取れるのです。遺族基礎年金は老齢基礎年金額の満額に子1人目と2人目には23万4,800円、3人目から7万8,300円が加算されます。(令和7年度)

 

遺族厚生年金を受け取れるときは、遺族厚生年金と遺族基礎年金の両方を受け取れます。子が18歳を超えた場合は基礎年金を受け取れません。たとえば子が3人それぞれ成長して18歳を過ぎると、加算が1人ずつ減り、3人目の子が18歳を過ぎた時点(高校卒業年度)で遺族基礎年金を受け取れません。年金生活者支援給付金も受け取れます。

 

《ポイント:年金生活者支援給付金》

〇年金生活者支援給付金の対象者(年収・年齢要件など)

〇遺族基礎年金・障害基礎年金・老齢基礎年金の受給者

寡婦年金と死亡一時金は「どちらか一方」しか受け取れない

受け取る前に亡くなったときには、国民年金保険料を支払っている期間により、死亡一時金や妻が受け取れる寡婦年金などがあります。日本国籍を有していないひとが加入していた国民年金と厚生年金が10年以上保険料を納めていないときは、脱退一時金などがあります。

 

「寡婦年金」を受け取るための「3つ」の条件

遺族基礎年金を受け取ることができない妻で、夫が国民年金保険料を支払っていたときに受け取れます。国民年金の独自給付です。配偶者の妻が受け取れます。夫は受け取れません。寡婦年金を受け取れる条件が3つあります。

 

1.死亡日の前日において、国民年金の保険料納付済み期間と保険料免除期間があわせて10年以上ある夫が年金を受け取る前に亡くなったとき。

2.夫によって生活をともにし、経済的に生計を維持されていたこと(生計同一)。

3.婚姻関係が10年以上継続されている妻。

 

60歳より前に亡くなった場合でも、受け取れるのは60歳から65歳のあいだになります。年金額は夫が国民年金第1号の被保険者期間から、老齢基礎年金の計算方法により算出した額の3/4です。死亡一時金との選択になります。

 

たとえば妻が55歳で夫が60歳で亡くなったとき(国民年金第1号被保険者として480か月納付済)は、繰り上げせず、老齢基礎年金を受け取る前です。このとき寡婦年金は83万1,700円の3/4、60歳から65歳までの5年間受け取れます。再婚など生計維持関係が亡くなったときは受け取れません。

 

《ポイント:寡婦年金の要件》

〇国民年金保険料を10年以上納めた人が亡くなったとき。

〇10年以上の婚姻関係のある妻が60歳から65歳までのあいだ受け取れる。