親を高齢者施設に入居させ、ひと安心……。しかし、その安堵が突然覆されることがあります。「看取りまでお世話になります」と交わしたはずの契約。それにもかかわらず、トラブルを理由に、ある日突然「退所勧告」を突きつけられるケースも。本記事では福山さん(仮名)の事例とともに、介護施設との契約の注意点について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
早急に退所してください…老人ホームから突然“追い出された”年金8万円の81歳母。「看取りまで」の契約を覆した〈想定外の一文〉【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

離れて暮らす母親を老人ホームへ

福山浩二さん(仮名/56歳)は、故郷から遠く離れた東京で暮らしています。現在は、妻の雅子さん(仮名)、大学生の長男との3人暮らしです。家族にはもう一人、すでに独立している25歳の長女もいます。

 

福山さん自身にはきょうだいがおらず、7年前に父親が他界してからは、80歳の母親が実家で一人暮らしをしていました。しかし、4年前に転倒して足を骨折したことや、近ごろはなにかと物騒なニュースが多いことも重なり、親子ともに80代での一人暮らしに不安を感じるように。そこで、高齢者向け施設への入居を検討しはじめました。

 

さまざまな施設を比較した結果、病気になって回復が見込めないような状況になっても看取りまで対応してもらえる「ターミナルケア」が可能な住居型有料老人ホームを選びました。入居費用は10万円で、月額利用料は12万円。母親には年金収入が月8万円しかないため、毎月4万円が不足しますが、父親の遺産として2,000万円ほどの貯蓄があります。そのため、実家を売却せずとも、当面の費用は見通しが立ちます。毎月の不足分4万円や非常時のお金を母親の貯蓄から下ろせる算段もでき、福山さんは胸をなでおろしました。

 

入居当時、母親には時折もの忘れが見られたものの、それまで一人暮らしができていたこともあり、認知症など健康面への大きな心配はありませんでした。ただ、福山さんが唯一気がかりだったのは、人付き合いがあまり得意ではない母親が、施設での集団生活に馴染めるかどうかという点でした。

 

骨折した足そのものは治っていたものの、治療中に筋力が落ちてしまったのでしょう。入居後の母親は「部屋から出るのも億劫だ」と福山さんに零しており、実際に、特別な用事以外はほとんど自室でテレビをみて過ごしていたそうです。そのせいか、入居後に母親は認知症が進んでしまい……。