(※写真はイメージです/PIXTA)
信頼していた息子からの、あまりにも残酷な仕打ち
東京都内の閑静な住宅街に、鈴木幸子さん(82歳・仮名)は長年暮らしてきました。10年前に夫を亡くしてからは一人暮らし。月16万円の年金と、夫婦でコツコツと貯めてきた貯蓄を切り崩しながら、穏やかな生活を送ってきました。
「あの子がそんなことをするなんて、夢にも思いませんでした。全部、私が愚かだったのです……」
幸子さんが力なく呟く「あの子」とは、一人息子の正雄さん(59歳・仮名)のことです。幸子さんが80歳を過ぎた頃から足腰が弱くなり、銀行の窓口まで足を運ぶのが億劫になってきました。また、詐欺や強盗といった物騒なニュースを見聞きするたびに、手元にお金を置いておくことが怖くなったそうです。そんな母を見かねた正雄さんから、「俺が通帳と印鑑を預かって、お金の管理をしようか」と提案がありました。
「当時は本当にありがたいと思いました。息子は近くに住んでいましたし、頻繁に顔を見せてくれていましたから。まさか、自分の息子が……という気持ちがどこかにあって、何の疑いも持たなかったんです」
それ以来、幸子さんは毎月の生活費として決まった額を正雄さんから受け取る生活になりました。通帳も印鑑もすべて息子に預け、お金のことは一切を任せきりにしていました。
異変に気づいたのは、1年ほど前のこと。幸子さんが長年愛用していた冷蔵庫が壊れ、買い替えのためにまとまったお金が必要になったときのことです。正雄さんにその旨を伝えると、「今、ちょっと大きな出費は厳しいんだ。もう少し我慢できないか」と歯切れの悪い返事が返ってきました。
「おかしいな、とは思いました。夫が遺してくれたお金も十分にあるはずなのに、と。でも、息子が言うことですから、何か事情があるのだろうと自分に言い聞かせてしまいました」
その後も、少し大きな出費が必要になるたびに、正雄さんは何かと理由をつけて先延ばしにするようになりました。幸子さんの不安は少しずつ、しかし確実に膨らんでいったのです。