高齢者が安心して暮らすために選ばれる老人ホーム。しかし、「良かれと思ったはずの選択」が、思いも寄らぬ形で心や生活に影響を及ぼすこともあります。見守りやサポートは大切ですが、自立や尊厳を守るバランスも真剣に考えるべき課題です。
お願い、もう何もしないで!〈月額18万円〉の老人ホームで変わり果てた82歳母、初めての「老人ホーム請求額」に目を疑う52歳長女。「良かれと思った選択」の残酷な結末 (※写真はイメージです/PIXTA)

「良かれと思ったこと」が自立を奪う…過剰介護問題と対策

過剰な介護は、高齢者の自立を妨げ、心身の機能を低下させる危険性をはらんでいます。美穂さんの母・和子さんも、入居から半年でその変化は明らかでした。

 

「入居前は、杖をついてでも自分で買い物に行ったり、庭の手入れをしたりと、生き生きとしていました。それが今では、すっかり覇気がなくなってしまって……」

 

施設での生活は、和子さんの行動を制限するものでした。施設側の「安全のため」という配慮は、結果として和子さんの「できること」を奪い、自立心を削いでいきます。美穂さんは、自分が母の自立を奪ってしまったのではないかと、自責の念に駆られました。

 

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、要介護者が介護を必要とする主な原因として、「関節疾患」「転倒・骨折」に続いて「高齢による衰弱」が上位に挙げられています。過剰な介護によって身体を動かす機会が減り、心身の機能が低下することは、この「高齢による衰弱」を加速させる一因となりえます。

 

老人ホームの選び方を誤ったのではないか、なぜもっと事前に確認しなかったのか。美穂さんの後悔は尽きません。過剰介護の問題を避けるためには、入居前に施設と入念に話し合うことが不可欠です。

 過剰介護(介護の囲い込み)から家族を守るために

昨今、社会問題になっているのが過剰介護(介護の囲い込み)です。これに対し、入居者自身も「自分の介護は自分で守る」という意識を持つことが大切です。

 

まず、施設やサービスを人任せにせず、自ら情報を集めて比較検討しましょう。そのうえで、ケアマネジャーには自分の状態や「どう暮らしたいか」という希望を明確に伝え、納得のいくケアプランを一緒に作ってもらうことが大切です。

 

もし少しでも「囲い込まれているかも」「サービスが過剰ではないか」といった疑問や不安を感じたら、決して抱え込まず、地域包括支援センターや自治体の相談窓口へ速やかに相談することが重要です。

 

[参考資料]

生命保険文化センター『2024年度 生命保険に関する全国実態調査(2人以上世帯)』

厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』