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「扶養の仕組み」が女性のキャリア形成を阻む
男女役割分業意識は日本社会に根付き、古くは企業でも性別雇用管理が行われていたが、採用や昇進などで性差別を禁止する男女雇用機会均等法施行から40年経ち、出産・育児後も女性が働き続けることが主流になった。このように、女性の就業環境が改善したにも関わらず、短時間就労にとどまることに公的インセンティブを与える扶養の仕組みが存続していることで、反って有配偶女性の働き控えを招き、キャリア形成を阻むことが懸念される。
さらに、扶養の仕組み自体が、男女役割分業意識の助長につながる。学校が男女平等を教え、企業が「女性活躍」を進めようとしても、各家庭で「父親が主に稼ぎ、母親はパート」という両親の姿を見て育てば、子の意識に少なからず影響を与えるだろう。
社会保険の第3号被保険者制度はもともと、妻の年金権を確立し、離婚後の妻の困窮を防ぐためなどとして1985年に創設されたが、上述の通り、社会環境が変化し、時代にそぐわない制度となっている。厚生労働省の検討会が2001年に「片働き世帯を優遇する」「女性の就労や能力発揮の障害となる」と指摘しているが1、いまだに制度見直しには至っていない。
昨年12月の社会保障審議会の年金部会では、第3号被保険者制度について、見直しを求める意見が出た一方、出産・育児や介護、病気など、様々な事情がある人への「所得保障」の機能があることや、支払い能力が低い人には負担を軽くする「応能負担」の原則に基づくことなど、妥当性を主張する意見が出され、今後の方向性がまとまらなかった。
筆者も、様々な事情によって経済的に自立できない人への所得保障が必要なことは同意するが、第3号被保険者制度は、それを会社員や公務員の配偶者に限定している点が、不公平だと考えている。独身であっても、自営業者の妻であっても、等しく保障を受けられるべきである。また上述の通り、多くのパート妻たちは、負担軽減を理由に自ら働き控えをしているのに、「応能負担」だということにも違和感がある。
話が長くなったが、ここまでが、今年の通常国会で法改正された「年収の壁」の話だ。次に、「遺族年金」の改正について、みていきたい。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」のどちらも改正されたが、筆者が特に注目しているのは、そのうち遺族厚生年金の改正である。2028年4月に施行される。
1 「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会」