「“山の手”だから水害に強い」は誤解?

JRの路線名でお馴染みの山の手はもともと、高台の地域を指す言葉だ。ならば山の手は、低地よりも水害に強いと思うかもしれないが、実はすべてがそうとは限らない。

例えば、1958年9月の狩か野の川がわ台風で、東京都は392.5ミリメートルという当時最大の降雨量を記録し、約48万戸が浸水した。このときは下町地域だけでなく、山の手に位置する世田谷区、杉並区などでも浸水被害が多発した。

2000年以降に目を向けても、同様のことが起きている。2005年9月4日に猛烈なゲリラ豪雨が東京都を襲い、山の手では地下街浸水などの被害が発生した。

高地であっても水害に遭うのはなぜか? 一つは、高地の中にも高低差があるからだ。

例えば標高30メートルの場所に住んでいても、周囲が40メートル以上あれば、浸水リスクは高まる。また河川沿いなど谷地に住んでいる場合、周囲から水が流入しやすいので水害に巻き込まれる可能性は高まる。

もう一つ、高度経済成長期の宅地開発も影響している。

山の手では、開発が進む過程で地面がコンクリート化した地域が少なくない。また、雨水を逃がす役割のある遊水地が住宅地となり、水路は暗渠(あんきょ)化した。そのせいで、山の手の中の低い場所に、水が集中しやすくなっているのだ。

以上に当てはまる典型的な地形が、武蔵野台地である。

武蔵野台地は、標高190メートルの青梅付近を頂点とし、平均標高は50から80メートル、末端部分は15メートルという高台だ。地盤は強固なので、災害に強い地域のように思える。

だが実際には、大きな水害がたびたび起きている。

同地は高低差があるために、いくつもの谷底盆地が形成されている。また、かつては中小河川が幾筋も走っていた。それらのほとんどは暗渠化されている。

水が流れやすいのに逃げ場がないため、浸水リスクが高いわけだ。

近年は河川周辺に調整池が設けられるなどして水害リスクを減らす試みが続けられているが、それでも短期的に水が集中する豪雨災害のときは、注意が必要だ。

地形ミステリー研究会
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