近年、温暖化などの影響からか、異常気象が頻発する日本。こうしたなか、台風が多くなるこの時期に備えておきたいのが、豪雨による「水害リスク」です。そこで今回、河と海それそれの沿岸部で特に気をつけておきたい水害とその危険性について、『47都道府県の怖い地理大全』(彩図社)から見ていきましょう。
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支流の水が逆流するバックウォーター現象
関東地方には「逆水」や「逆川」という地名が多い。由来は、近辺の河川が他の川と逆方向に流れているからだとされる。ただ、これとは別に、バックウォーター現象という自然現象を表しているという説がある。
豪雨などで川の本流が増水すると、支流の水が流れ込めずに逆流することがある。これがバックウォーター現象だ。海で高潮が発生した場合には、本流でも起きることがある。
2018年6月28日に起きた西日本豪雨でも、この現象で大きな被害が発生した。集中豪雨によって岡山県の高梁川の水位が上昇し、支流の小田川が流れなくなったのだ。これによって小田川の堤防が決壊し、倉敷市真備町を中心に51名が亡くなった。また、2019年10月6日には台風19号の影響で、宮城県の阿武隈川が増水して支流の新川が氾濫している。その翌年には、九州豪雨によって熊本県の球磨村の河川が逆流した。こうした現象を表す土地に、逆川・逆水という地名がつけられたという説だ。
実際、千葉県八千代市の逆水は、江戸時代には水害時に、バックウォーター現象が起きていたと考えられる。
この地域にはかつて、周囲60キロの北印旛沼と西印旛沼があった。海辺から独立した沼沢地であったのだが、江戸中後期の治水事業により、利根川と結びつけられた。沼の平均水深は約1・7メートルしかないため、豪雨時には利根川の水で簡単にあふれ、沼周辺はたびたび洪水被害に遭うことになった。印旛沼があふれることで、そこに流れ込む新川でバックウォーター現象が起きたとみられる。度重なる洪水被害を抑えようと、幕府は江戸湾(現東京湾)へ排水する計画を立てたが、江戸時代中には完成しなかった。1969年になってやっと、印旛放水路が開通している。
もちろん、日本各地すべての逆川でバックウォーター現象が起きていたとは限らないが、河川沿いに水害は付き物だ。雨天のときには注意を払うことに越したことはない。
