年を重ねると、多くの人が直面する住まいの問題。年金や退職金を頼りに、安心、そして快適に暮らせる終の棲家を希望する人も多いようです。しかし、そこには思いもしない落とし穴が潜んでいることも珍しくありません。
こんなはずじゃなかった〈年金月18万円〉〈退職金1,500万円〉65歳男性、〈1,200万円〉を投じた終の棲家だったが…妻は泣き崩れ、地獄と化した「まさかの理由」 (※写真はイメージです/PIXTA)

完成した終の棲家…しかし夢の崩壊はすぐに始まった

屋根の無料点検から始まった、年を重ねても快適かつ安心できる住まいづくり。男性が提案してきたのは、家中の段差をなくすバリアフリー化、断熱性を高めるための壁と窓の改修、そして古くなった水回りを一新するなど、これからの30年を穏やかに過ごすための全面リフォーム計画でした。提示された完成イメージ図は、暖かな光が差し込むリビングで夫婦が笑顔で寄り添う、まさに理想の空間――。見積り金額は1,200万円。退職金の大半が消える金額に一瞬ためらいを覚えた茂さんでしたが、「この先、30年を安心して暮らすための投資だと思えば、決して高くはない」と考え、男性の提案に乗ることにしました。

 

約3カ月後、ついにリフォームが完了。引き渡された我が家は、見違えるように綺麗になっていました。リビングは段差がなくなり広々とし、壁や床には新しい断熱材が入ったおかげで、家中の空気が暖かく保たれています。最新式のシステムキッチンに、妻は少女のようにはしゃいでいました。

 

「1,200万円の投資は、決して高くなかった――」

 

そう考えていましたが、リフォーム後、3カ月ほど過ぎた梅雨の時期。リビングの壁紙の一部に、じわりと黒いシミが浮き出ているのに茂さんが気づきました。

 

「なんだ、これは?」

 

最初は気のせいかと思いましたが、シミは日を追うごとに濃く、そして大きく広がっていきます。追い打ちをかけるように、寝室の天井からもポタ、ポタと水滴が落ち始めました。慌てて男性の携帯電話に連絡するも、「現在、電話に出ることができません」という無機質なアナウンスが流れるだけ。会社の代表番号にかけても繋がりません。リビングの床を歩くとミシミシと嫌な音が鳴り始め、場所によっては少し沈むような感覚さえありました。あれほどスムーズだったドアの立て付けも悪くなり、力を入れないと閉まらなくなってしまったのです。

 

リフォーム会社には期待できないと判断した茂さんは、別の建築士に依頼し、家の状態を調査してもらうことに。そこで判明したのは、残酷な事実でした。壁の内部には断熱材がごく一部にしか入っておらず、大部分は空洞のまま。天井からの雨漏りは、屋根の防水処理が極めてずさんだったことが原因でした。さらに、床のきしみは、下地の補強がまったく行われていない手抜き工事によるものだと判明。

 

さらに建築士から指摘されたのが、最初に壊れていると言われた屋根の写真。「もしかしたら、点検と称して屋根に上がり、故意に壊したものでは?」というものでした。断定はできないものの、詐欺行為に近いと告げられました。

 

退職金のほとんどを費やして行ったリフォームが、まさか詐欺だったとは――。あまりのことに妻はその場に泣き崩れ、茂さんもただ茫然と立ち尽くすことしかできなかったといいます。

 

国民生活センターによると、訪問販売によるリフォーム工事に関する相談件数は、近年増加傾向にあります。2023年度には1万1,861件に達し、過去最高を更新。さらに屋根工事に関する点検商法の相談が全体の7割を占め、2018年度の約2.5倍に増加しているといいます。

 

リフォーム工事の訪問販売自体は違法ではありません。ただ、高齢者を狙った悪質な業者も多いため、契約前に複数の業者から見積りを取ったり、不明な点があれば専門家や相談窓口に相談したりすることが重要です。

 

[参考資料]

国民生活センター『訪問販売によるリフォーム工事・点検商法』