表面上は穏やかに見える夫婦でも、心の奥底にはそれぞれの葛藤や決断が潜んでいるものです。価値観や人生観の違いが、長い年月を経て鮮明になることも。夫婦の「これから」を考えるとき、誰もが直面しうる問題なのかもしれません。
〈年収1,200万円〉55歳夫からの突然の離婚宣告に絶望。「私の何がいけなかったの?」と号泣する52歳妻に放たれた耳を疑う「衝撃のひと言」 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫が語る自分本位な結婚の真実

話し合いは平行線を辿りました。咲子さんが泣いて離婚を拒んでも、大介さんは決して声を荒らげることはありません。

 

「咲子がそう思うなら仕方ない。でも、少しだけ僕の話も聞いてもらえないだろうか」。大介さんは常に、咲子さんの気持ちを尊重する姿勢を崩しませんでした。その逃げ道を残すような物言いが、かえって咲子さんを精神的に追い詰めました。そしてある夜、大介さんはついにその本心を語り始めました。

 

「僕は、『田中家の長男』という役割をずっと担ってきた。地方の旧家の跡継ぎをもうけることが、僕の人生のすべてだったんだ。君と結婚したのもその使命を果たすことが第一だった。咲子のおかげで、僕はその役目を無事に果たせた。本当に、君には感謝している」

 

そこまで語ると、大介さんは咲子さんの目をまっすぐに見て、感謝の言葉を口にします。それはまるで、長年の功労を称える表彰状を読み上げるかのようでした。

 

「翔太も、もうすぐ自分の家庭を持つ。僕の役目はこれで終わりだ。これからはもう、僕やこの家のしがらみに縛られず、君自身の人生を自由に生きてほしい」

 

裁判所『令和5年 司法統計』によると、夫からの離婚申し立てで最も多い理由は「性格が合わない」で、「精神的に虐待する」、「異性関係」と続きます。一方で妻からの申し立てでは、「生活費を渡さない」や「暴力を振るう」といった理由も多く見られます。

 

咲子さんの涙はすっと引いていました。これまでの結婚生活を全否定するかのような大介さんの身勝手で、意味の分からない言葉、あくまでもキレイに終わらせようとする態度に、気持ち悪ささえ覚えたといいます。

 

「よくわかりました」

 

一瞬、安堵の表情を浮かべた大介さんに向かい、咲子さんは冷静に続けました。

 

「その代わり、私がこの25年間、『田中家』に捧げてきた労働の対価を、退職金や慰謝料という形で、きっちりと見せてもらいます」

 

離婚における慰謝料は、相手方の有責行為*が主たる原因となって離婚に至った場合に請求できます。田中さん夫婦の場合、これに当てはまるかは微妙なところかもしれません。


*不貞や、身体的・精神的暴力、悪意の遺棄(生活費の不払いなど)、その他婚姻上の義務に違反する行為のこと

 

財産分与では、婚姻中に双方の協力によって取得した財産が精算の対象となります。また、退職金を確実に受け取れると見込まれる場合には、財産分与の対象とすることも可能です。さらに一定の条件を満たせば、婚姻期間中の厚生年金の納付記録を、離婚した当事者間で分割できます。財産分与の請求は、離婚のときから2年以内であれば請求することができます。

 

咲子さんは、「絶対妥協はしません。1円でも多く、ぶんどってやります」と息巻いています。

 

[参考資料]
厚生労働省『人口動態統計月報年計』
裁判所『令和5年 司法統計』
法テラス『離婚・DV・恋愛トラブルに関するよくある相談』