(※写真はイメージです/PIXTA)
こんなはずじゃ…「新築」という言葉につられて後悔の日々
しかし、入居してしばらく経つと、期待感はすぐに色褪せ始めます。
まず気づいたのは、スタッフの対応のぎこちなさでした。オープニングに合わせて急遽集められたのか、スタッフの多くは経験が浅く、マニュアル通りの言葉を繰り返すばかり。入居者の顔と名前も一致せず、通り過ぎるたびに「田中様、何かお変わりありませんか」と尋ねるものの、その目はどこか虚空を見ています。
「あの……先日お願いした電球の交換ですが…」
「申し訳ございません、すぐに確認して参ります」
そう言って笑顔で去っていくものの、一向に返事がない。そんなことが何度も続きました。人手が足りていないのは明らかで、清掃もラウンジなど目立つ場所は綺麗にされているものの、居室の隅には埃が溜まったままでした。豪華な調度品と、行き届かないサービスとのギャップが、日を追うごとに目につくようになりました。
楽しみにしていた食事も、期待とは程遠いものでした。パンフレットでは腕利きのシェフが腕を振るうと謳われていましたが、実際に運ばれてくるのは、どこか冷めていて味気ない料理ばかりでした。レストランのようなダイニングルームで、入居者たちは黙々と味気ない食事を口に運ぶのでした。
「話が違うじゃないか」
「前のホームの方が、ずっとマシだったわ……」
他の入居者からも、そんな囁きが聞こえてくるようになりました。
新築の老人ホームでは、施設長や一部の社員を除き、経験の浅いスタッフばかりというケースも少なくありません。オープン当初は何かと落ち着かず、期待したサービスを受けられないという不満は起きがちです。通常、時間の経過とともにサービスの質は向上していくものですが、この施設は例外だったようです。
「最初はオープンしたばかりだから、仕方がないと思っていたんです。いずれ慣れてくるだろうと。しかしスタッフがすぐに辞めてしまうらしく、人手不足はいつまでも解消せず、サービスの質も低いまま。見学会で聞いたような素敵な生活は、いつまで経っても送れそうもありません」
高い入居金と月額費用を払いながら、心休まることのない日々。今から別の施設を探す気力も、体力も残っていません。新築の輝きに目がくらみ、そこで働く人を見極められなかった後悔だけが募ります。
[参考資料]
内閣府『令和6年 高齢社会白書』