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消費者物価との乖離が拡大…実質賃金マイナスは今後も継続か
しかし、こうした名目賃金の上昇が家計の実感に直結しているかというと、必ずしもそうではありません。実質賃金指数は82.8(令和2年平均=100)と、前年同月比2.9%のマイナスであり、実質で見た賃金の購買力は依然として目減りしています。背景には、消費者物価指数(CPI)の4.0%、つまり物価が前年比で4.0%も上がっていることにあります。
CPIの上昇はエネルギーや食料品、サービス価格の継続的な上昇が要因とされています。賃金の伸び率がこれに追いつかない限り、家計の可処分所得は実質的に減り続けます。この状況は賞与増などで一時的な改善は見られたものの、すでに2年近く続いており、生活防衛的な消費傾向や節約志向の強まりにつながっています。
労働時間にも陰りがみられます。総実労働時間は月134.2時間と前年比2.0%減、出勤日数も0.3日減少した。特に所定外労働時間が2.1%減少しており、企業が残業を控える傾向にあることがうかがえます。業績や需要の回復に対する不安から、慎重な労務管理が続いているようです。
産業別に見ると、電気・ガス業(5.0%増)や生活関連サービス業(12.7%増)など、一部で高い賃金伸び率を記録する業界もありますが、運輸業(4.9%減)、建設業(1.5%減)といった業種ではマイナス圏に沈んでいます。運輸業では特別給与が半減(▲53.2%)しており、長時間労働と低収益構造の問題がなおも解消されていません。
また、パートタイム労働者比率は31.11%と、前年から0.41ポイント上昇。労働市場における非正規依存の構造は変わらず、特に人手不足が顕著な飲食業(77.8%)や生活関連サービス業(48.5%)などでは、パートなしには現場が回らない状況が続いています。
今後の課題は、企業が物価上昇に見合った賃上げを持続的に行えるかどうかにかかっています。経済界からは、生産性の向上と価格転嫁の両立によって、持続可能な賃金上昇を実現すべきとの声が強まっていますが、実質賃金の回復なくして消費の本格回復は見込めず、経済全体の自律的成長にはつながりにくいのが現状です。
政府は今後の経済対策として、賃上げ企業への税優遇や支援策の拡充を検討していますが、賃金・物価・消費の三位一体での好循環が確立されるには、時間と構造改革が求められます。
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