(※写真はイメージです/PIXTA)
よく聞く「年金の話」には落とし穴がいろいろ
「健康優良児のあなたに、何かなんて起きないわよ」。そう笑っていた綾子さん。「まさか、本当に『何か』が起きるなんて」
日本では、夫が亡くなったあとに妻に支給される「遺族年金」は、主に以下の2つに分類されます。
遺族基礎年金:18歳未満の子どもがいる場合など、一定の条件を満たす場合に支給
遺族厚生年金:会社員・公務員など厚生年金に加入していた故人の収入や保険料納付状況に応じて支給
つまり、子どもが独立し、老夫婦2人だけの世帯になった時点で、「遺族基礎年金」は対象外となり、「遺族厚生年金」しか支給されません。この時点で、よく耳にする「遺族はその年金の4分の3を受け取ることができる」が、額面通りではないことに気づくでしょう。綾子さんが受け取れる遺族年金は、正志さんの年金月17万円から基礎年金を引いた金額の4分の3、つまり7.5万円になります。
13万円弱が7.5万円に?
ただ、65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利がある場合は、「①死亡した配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「②死亡した配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生年金の額の2分の1の額を合算した額」を比べて、高いほうの額が採用されるというルールがあります。
綾子さんの場合、①7.5万円、②9万円で、高いほうである9万円が採用されるということになります。1.5万円ほど増えることに安堵する人もいるでしょう。しかし、65歳以上で遺族厚生年金と老齢厚生年金を受ける権利がある場合、自身の老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止になるというルールがあります。つまり、綾子さんの老齢厚生年金8万円は全額支給となり、遺族厚生年金との差額、1万円だけが上乗せされて支給されるということです。
このような遺族年金にまつわる勘違いによって、実際の支給額を知らされたとき、綾子さんは「亡くなった夫が言っていたことと、ずいぶんと違うのですが……」と問い合わせをして、恥をかいたといいます。
「30万円弱もらえると思っていた年金が月16万円ですから……夫の言葉をそのまま信じていた私がバカだったという話ではあるのですが」
遺族年金を正しく受け取るために必要なのは、まず「自分(または配偶者)の年金記録の把握」です。「ねんきんネット」(日本年金機構)に登録することで、自分や配偶者の年金加入履歴や見込額をオンラインで確認することができます。これを活用して、将来の年金額や遺族年金の受給見込みを計算し、不足分を補うための備え――たとえば、個人年金保険やNISA、iDeCoなどを検討することも有効です。
また、年金のルールを正しく理解することも大切です。年金について「よく言われていること」は、一部だけ切り取られたものも多くあります。万一の際、遺族年金はどうなるのか、年金相談などでもシミュレーションしてくれるので、活用してみるといいでしょう。
[参考資料]
日本年金機構『遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)』