多くの人が直面する、親の介護問題。自宅での介護に限界を迎えたとき、「施設に預ければ解決!」という単純な話ではなく、費用や対応力、本人の適応など、現実は複雑のようです。
もう限界です…〈年金18万円〉の74歳義父を「月額22万円の老人ホーム」に入居させた52歳嫁の絶望。わずか3ヵ月で義父が自宅に帰ってきた日 (※写真はイメージです/PIXTA)

平穏だったのは束の間…鳴りやまない電話にため息

入居して最初の1週間は、本当に穏やかな日々だったと由美子さん。24時間体制で専門スタッフが見守ってくれる安心感。栄養バランスの整った温かい食事。由美子さんは、久しぶりに夜中に目を覚ますことなく、朝まで眠れる幸せを噛みしめていました。手に入れた平穏は、高額な費用を払ってでも十分価値のあるものでした。

 

しかし、その平穏はすぐに崩壊します。連日、由美子さんのスマートフォンに、施設から連絡が入るようになったのです。

 

「正雄様が、夜間に突然『家に帰る』と大声を出されて、他のお部屋から苦情が……」

「レクリエーションへの参加をお誘いしても、『俺を馬鹿にするな』と激しく拒否されまして……」

「他の入居者様の食事に手を出そうとして、トラブルになりかけました」

 

報告されるのは、記憶障害といった認知症の中核症状よりも、徘徊や暴言、介護への抵抗といった「行動・心理症状(BPSD)」の問題ばかりでした。もともと頑固でプライドが高い性格だった正雄さん。長年続いた自由な一人暮らしから、集団生活のルールのなかに取り込まれることに、強いストレスと混乱を感じていたのでしょう。施設側も、当初は個別対応を試みてくれていました。しかし、限られたスタッフで多くの入居者を見ている介護現場において、一人のためにつきっきりになることは物理的に不可能です。電話口のスタッフの疲弊した声色から、「これ以上は面倒を見きれない」という悲鳴が聞こえてくるようでした。そして入居から3ヵ月が経とうとするころ、施設長から改まった口調で告げられたのです。

 

「大変心苦しいのですが、現状のままでは他の入居者様の安全と安心な生活を守ることが困難です。つきましては、一度ご自宅で……」

 

事実上の退去勧告でした。呆然としながらも、夫婦は正雄さんを連れ帰るしかありません。週末、がらんとした施設の個室で荷物をまとめ、支払った高額な入居一時金の一部は返還されるものの、月々払い続けた22万円は戻ってきません。お金も、安らぎも、すべて失ったような絶望感に襲われました。

 

「これからの生活、どうなるんだろう……」 由美子さんは、終わりが見えないトンネルに再び迷い込んだ気がしたといいます。

 

老人ホームへの入居は、「介護の終わり」ではありません。介護・医療体制をうたっているホームであっても、実際にどれほど対応できるかは、施設によって異なり、正雄さんのように認知症であれば、症状の進行により「もう見切れません」といわれることもゼロではないでしょう。

 

各自治体には必ず「地域包括支援センター」のような公的な相談窓口が設置されています。介護保険で利用できるサービスや、他の施設の選択肢についても相談することが大切。介護で限界を超えてしまう前に、最善の道を見つけるための確実な一歩になります。

 

[参考資料]

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『【探し方編】LIFULL 介護が「介護施設入居実態調査 2025」を発表』

株式会社LIFULL senior/LIFULL 介護『【お金編】LIFULL 介護が「介護施設入居実態調査 2025」を発表』