年金だけで暮らす高齢者が増えるなか、「老後破綻」はもはや特別な話ではありません。見えづらいのは、お金に困っていることを周囲に言えず、ひとりで抱え込むケースが多いという現実。体面やプライド、家族への遠慮が「助けて」の一言を遠ざけてしまうのです。
恥ずかしくて、息子には言えない…〈年金月20万円〉も〈貯金残高3万円〉の72歳女性、元教師と母のプライドで「助けて…」といえない「残酷な現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「助けて」が言えない…自責の念と社会からの孤立

ある日の午後、良子さんはスーパーの鮮魚コーナーで立ち尽くしていました。特売の鮭が一切れ250円。以前なら迷わずカゴに入れていたその値段が、今はひどく高く感じられます。

 

「今日はやめておこう……」

 

そう心に決め、何も買わずにスーパーを後にしました。その瞬間、ふと自分の姿が惨めに思え、涙がこみ上げてきました。教え子たちの前では、常に凛としていた自分が、今や数百円の買い物に一喜一憂している。すべては自分の愚かな行いが招いたこと。自業自得だという思いが、胸を締め付けます。この現実を、誰が想像できたでしょうか。

 

日本弁護士会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、自己破産に至った理由として「生活苦・低所得」が最も多く61.69%。「病気・医療費」(23.31%)、「負債の返済(保証以外)」(20.48%)、「失業・転職」(17.58%)と続き、「ギャンブル」は7.18%と、それほど多くを占めてはいません。

 

一方で厚生労働省研究班の調べによると、ギャンブル依存症は全国で約320万人いるといわれています。また、厚生労働省『令和5年度 ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査』によると、過去1年間で最もお金を使ったギャンブルとしては「パチンコ」が最も多く46.5%。「パチスロ」(23.3%)、「競馬」9.3%と続きます。

 

「生活が苦しい。でも自業自得。とても息子には助けてなんていえない」

 

ギャンブル依存症はギャンブルをコントロールできなくなる精神疾患です。しかし、理解が進んでいないため、発覚しにくいといわれています。良子さんが依存症なのかどうかはわかりませんが、元教師としてのプライド、息子を思う親心、「世間体が悪い」「自業自得だから」などさまざまな思いが、良子さんの口を重く閉ざさせていました。

 

公的な相談機関を利用したギャンブル等依存の問題を抱えている本人およびその家族が、ギャンブル問題に気が付いてから初めて病院や相談機関を利用するまでの期間は、それぞれ平均2.9年、3.5年と、ずいぶんと時間を要します。

 

「ギャンブルが原因なら、自己責任だ」と切り捨てるのは簡単かもしれません。しかし、その一言が、助けを求める最後の声を封じ込め、人を社会からさらに孤立させてしまう原因にもなりえるのです。

 

[参考資料]

日本弁護士会『2020 年破産事件及び個人再生事件記録調査』による

厚生労働省『令和5年度 ギャンブル障害及びギャンブル関連問題実態調査』