
テーブルに置かれた日記帳…最後のページに書かれていたのは
途方に暮れながらも、まずは家の中を片付けようと、散らかった衣類を整理し始めたときのことです。ダイニングテーブルに一冊の大学ノートを見つけました。それは、聡子さんがつけていた家計簿&日記。昔から買い物のあと、ノートにその日の出来事を記すとともに、レシートを貼るのが習慣でした。「まだ、やっていたんだ……」と、何気なく中を見て良一さんは言葉を失いました。最初は天気や日々の食事など、たわいもない内容が丁寧な文字で綴られています。しかし、ページをめくるにつれて、その内容は少しずつ異様な空気を帯びていきました。
「お金が足りない。誰かが盗んでいる」
「隣の家の人が、じっとこちらを見ている気がする」
「今日は銀行の人が来た。怖い顔をしていた」
日付はバラバラになり、同じ日の出来事が何度も書かれている箇所もあります。そして、最後のページには、震えるような文字でこう記されていました。
「うつしたおかね、どこにいったかわからない」
タンス預金は誰かが盗んだのではなく、どこかに移し、その事実を忘れてしまったのが濃厚になってきました。また日記に並んだ支離滅裂な言葉は、聡子さんの認知機能が深刻な状態にあることを、何よりも雄弁に物語っていました。
後日、一緒に病院に行くと、聡子さんは認知症と診断されました。もの忘れがひどくなったり、判断・理解力が衰えたりなど、認知症の初期症状はいろいろと挙げられます。不安感が強くなるというのも、ひとつの症状です。
その後、聡子さんが「盗まれた!」と主張していたお金は、なぜか台所の床下収納で発見したとか。(ただ、聡子さんが主張する2,000万円ではありませんでしたが)。
親が認知症になった場合、頭を悩ませる問題のひとつが「お金の管理」。成年後見制度がありますが、財産を自由に管理できなくなる、手続きが煩雑などのデメリットがあります。また成年後見制度を利用したくない場合、家族信託、生前贈与、任意後見制度などの代替手段も。思わぬトラブルに発展する可能性もあるので、専門家に一度相談するのも有効です。また何よりも、万一を想定して、日ごろから家族の間で話し合い、対策を講じておくことが最も重要といえるでしょう。
[参考資料]
金融広報中央委員会『令和5年 家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]』
政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本』